素晴らしき3種の英国スポーツ トライアンフ・スピットファイア MGB ロータス・エラン 後編

公開 : 2022.05.22 07:06  更新 : 2022.08.08 07:11

リアアクスルの不安定さが面白い

インテリアは、60年前のクルマだとしても質素。内装パネルは少なく、ボディがむき出しの場所が多い。ダッシュボード中央に4枚のメーターが並ぶのは、右ハンドル車と左ハンドル車を作り分ける製造コストの抑制が目的だった。

それでも、スミス社製のメーターは読み取りやすい。ステアリングホイールもシンプルな2スポーク。切り始めの遊びは多く、レシオが低く、速度が増してもタッチは軽いまま。小回りは良く効く。

トライアンフ・スピットファイア 4(1962〜1980年/英国仕様)
トライアンフ・スピットファイア 4(1962〜1980年/英国仕様)

1速に入れてエンジンを回せば、ヘラルドとの共通性が滲み出てくる。アクセルペダルは、常にしっかり踏み込む必要がある。ハーフスロットル程度では、充分な勢いは得られない。

コーナリング中にアクセルペダルを緩めると、スイングアクスルによってリアのキャンバー角が変化する。グリップ抜けを避けるために、事前の速度管理が重要。だが、その不安定さが面白い。

4速MTは、小気味良く次のギアを選べる。排気音は今回の3台で1番大きい。0-97km/h加速は17.3秒と振るわないが、それ以上に速く感じる。エランよりボディ剛性が明確に劣っていても、同等に楽しい。

もう1台のライトブルーが、イーアン・サットン氏がオーナーの1963年式MGB。ドライビング・フィールを比較すると、スピットファイアやエランとは大きく異なる。

標準のスチールホイールを履き、プル式ドアハンドルと、ヘッドレストのないシートがMGBの前期型である証。鮮やかなボディカラーは後期型の純正色だが、それ以外の見た目はオリジナル状態だという。

英国が誇る3台の自動車遺産

エンジンには、オプションのオイルクーラーが備わる。現代的なオルタネーターが組まれ、K&N社のエアフィルターと電動ファンでアップグレードされている。標準の4速MTから、オーバードライブの備わる5速MTへ換装されてもいる。

MGBは、風を感じながら駆け回るスポーツカーというより、オープントップのグランドツアラー的。Bシリーズ・エンジンの厚みのあるサウンドとリニアなパワー感が、快活な印象を与えてくれる。

ブリティッシュ・グリーンのロータス・エラン 1600と、パウダー・ブルーのトライアンフ・スピットファイア 4、ライトブルーのMGB
ブリティッシュ・グリーンのロータス・エラン 1600と、パウダー・ブルーのトライアンフ・スピットファイア 4、ライトブルーのMGB

5速MTは、まんべんなくオイルが染み渡っているのが伝わるスムーズさで、変速が楽しい。とはいえ、オリジナルの4速MTも感触は似たようなものだと記憶している。違いは、1つギアが多い程度だ。

MGBを運転すると、長距離旅行をしたいとウズウズしてくる。ステアリングホイールの操舵感は快適寄りながら、操縦性のバランスは優秀。グリップの良い現代的なピレリ・タイヤが、走りを支えている。

3台それぞれの個性が素晴らしい。小柄なブリティッシュ・スポーツカーを多くのドライバーへ提示した、60年前の傑作たちだ。優れた完成度が高い人気をもたらし、長いモデルライフへつながった。

ロータス・エランですら11年、MGBとスピットファイアは18年も作られ続けた。偉大なマツダMX-5(ロードスター)を生み出す原点にもなった。英国が誇る、自動車遺産といって間違いないだろう。

協力:ジェイド・カラン氏、グッドウッド、アラン・モーガン氏、クラブ・ロータス、アンディハリス氏、チチェスターMGOC、トライアンフ・スポーツシックス・クラブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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