往年のラリーキングを復刻 MST Mk1へ試乗 現代版フォード・エスコート RS1600 後編

公開 : 2022.05.24 08:26  更新 : 2022.11.01 08:49

シャープなエンジンに扱いやすいシャシー

意欲的に走りたいと、クルマが訴えている。アクセルレスポンスは極めてシャープ。ヒール&トウでブレーキペダルを深く踏みながら、適切にエンジンの回転数を上昇させるには、充分な練習が必要だ。

2.0L直列4気筒エンジンは、負荷の上昇とともにサウンドも増す。中回転域でも、人目をはばかるほどやかましい。現代のホンダ製VTECサウンドがお好みなら、このBDGも気に入ると思う。

MST Mk1(英国仕様)
MST Mk1(英国仕様)

最高出力253psは、息を呑むほどの勢いを与えない。それでも、MST Mk1を意のままに走らせることは容易い。

サスペンションは、適度に硬く、驚くほどしなやか。路面のうねりや隆起部分を、呼吸を合わせるように受け流す。路面変化を鮮明に教えてくれる。

フロントタイヤはワダチにとらわれず、狙ったラインを保とうとしてくれる。コーナー途中の凹凸や、アクセルペダルの大きめの操作で、姿勢が乱れることもない。さほどペースを速めずとも、リアアクスルは自由に左右へ振り回せる。

5000rpmを超えると、排気音がグンと高まる。7000rpmを超えると、一層クレッシェンド。MST Mk1へ陶酔してしまう。

筆者が1台オーダーするなら、味わい深く印象的なDBGエンジンを選ぶだろう。タイヤとホイールは、デモ車両より幅を細くし、グリップを若干低めると思う。細かなステアリングホイールの入力に対し、敏感に反応してくれるはず。

細いタイヤにすると、ワイドに膨らんだフェンダーは見栄えしない。恐らく、フェンダーラインはノーマルに戻すことになる。

帰ってきた往年のラリーキング

とはいえ、秀でたタイヤのグリップに、操作系の重み付けやフィードバック、見事な姿勢制御とシャシーバランスという組み合わせで、MST Mk1のデモ車両も圧巻のロードカーに仕上がっていた。価格以上に特別なクルマだと思わせるのに充分だ。

気持ちが奪われるのは見た目だけではなく、音響面でも同じ。そのドライビング体験は、非常に生々しくアナログで、懐が深い。スキルが伴えば、公道では納まりきれない能力を秘めている。

MST Mk1(英国仕様)
MST Mk1(英国仕様)

恐らく、心が動かないという読者もいらっしゃると思う。一方で叶うことなら自分も1台、とお感じの方もいらっしゃるだろう。

少なくともグレートブリテン島の西、ウェールズ地方のワインディングを走るなら、MST Mk1ほどピッタリのクルマはない。ドイツやイタリアのスポーツカー以上にハマる。地元の人からの注目度も半端ない。

雷鳴のように轟くコスワース由来の4気筒ユニットで、思い切り駆け巡って欲しい。往年のラリーキングが帰ってきたと、沢山の人が喜んでくれるはずだ。

MST Mk1(英国仕様)のスペック

英国価格:11万4000ポンド(約1903万円)
全長:4045mm(標準エスコート Mk1)
全幅:1570mm(標準エスコート Mk1)
全高:1486mm(標準エスコート Mk1)
最高速度:209km/h(予想)
0-100km/h加速:5.0秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:−
パワートレイン:直列4気筒1975cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:253ps/8000rpm
最大トルク:24.8kg-m/6500rpm
ギアボックス:5速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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