なぜマクラーレンはEVレースに参加するのか 単なる「F1チーム」ではない理由

公開 : 2022.05.17 06:05

マクラーレンが砂漠を走る?

「我々にとって、サステナビリティは非常に重要です」とブラウン。2011年にF1初のカーボンニュートラル認定を受けたことに触れ、「エクストリームEとマクラーレンのコアバリューの組み合わせは魅力的で、ブランディングの観点からも関わりたいレースシリーズでした」と語る。

「我々は、ショーケースであり教育や学習にもつながるプラットフォームを求めていました。エクストリームEは、サステナビリティの分野でマクラーレンが行っていることを強調する、F1以上のプラットフォームなのです。また、ジェンダー平等も大きなテーマでした。エクストリームEは、気候変動、EV、ジェンダー平等など、複数の要素が含まれていると感じたのです」

エクストリームEのマシン、スパーク・オデッセイ
エクストリームEのマシン、スパーク・オデッセイ

外的要因もある。エクストリームEではどのチームも主催者からマシンを借り、人員とコストに厳しい制限が設けられているため、コスト効率に優れている。

ブラウンも、F1の新しいコスト上限と人員制限が「一因」であることを認めている。なぜなら、失っていたかもしれないメカニックをエクストリームEチームで雇うことができるからである。例えば、ランド・ノリスの前エンジニアは、現在電動SUVの整備を担当している。マクラーレン・エクストリームのメカニックの大半はF1チーム出身者だ。

経験豊富なスタッフばかりだが、さらなる専門家の助けも得ている。ベテランのモータースポーツ企業であるマルチマティック社とパートナーシップを結び、ラリー界を代表するエンジニアのリーナ・ゲイドが主任エンジニアを務めているのだ。また、オフロード走行の経験豊富なドライバーを2人採用した。ラリークロスの米国スター、タナー・ファウストとキウイ出身のラリードライバー、エマ・ギルモアである。

チームの初陣となったDesert X-Prixでは、大きな期待が寄せられた。序盤は苦戦したものの、いわゆる「クレイジーレース(敗者復活戦)」ではファウストとギルモアのコンビが勝利を収める。しかし、最終レースではファウストが砂埃で視界を遮られ、減速していた他車にクラッシュしてしまった。

F1マシンとエクストリームEのSUVは全く異なる乗り物だが、ブラウンによれば、パドックで学んだスキルを電動オフロードシリーズにも活かせるという。「準備、技術、データ分析、そして最高のドライバーを持つことがすべてです。クルマの機械的な要素は異なりますが、考え方は同じです」

ファンの反応に期待 いずれは市販EVも……

エクストリームE、そしてフォーミュラEへの参戦がマクラーレンにとって奇妙な決断に見える理由の1つは、市販車部門からEVもSUVも販売されていないことにある。しかしブラウンは、次のように述べている。

「(両シリーズは)マクラーレン・レーシングが取り組むべきことであり、マクラーレン・オートモーティブの取り組みを損なうものではありません。そして、絶対とは言いませんが、いずれは市販EVが登場すると確信しています」

マクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウン
マクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウン

さらにブラウンは、レーシングチームであれ市販車部門であれ、マクラーレンのファンはこうした取り組みに興奮するであろうと考えている。

「マクラーレンを買う人はモータースポーツが好きですから、単なる遊びではありません。我々はレーシングチームであり、レーシングブランドでもあり、レースをすればするほど魅力につながっていくのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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