1926年のダブルシェブロン シトロエンB12 ランドレー・タクシー 最後の現存車 前編
公開 : 2022.06.04 07:05 更新 : 2022.08.08 07:10
100年近く前の部品でも入手可能
フランス人との取り引きを経て、1926年生まれのボロボロのシトロエンが英国へ運ばれてきた。「彼のガレージは、この地域にあるちょっとした小屋より大きいほど。2階建てです」。デ・リトルが続ける。
1階には、ドナー車両から取り外したエンジンとトランスミッション、リアアクスルも並べられたという。「彼は、整理するために札を貼っていました。技術者ではなく、ミシンは持っていましたが、旋盤やフライス盤などはありませんでした」
「それでも彼は、トランスミッション・ボックスを加工し、新しいベアリングを追加しました。驚くことに、多くの部品はまだ入手できるんです。100年近く前のシトロエンでも、ベアリングすら手に入ります」
写真だけの情報ながら、メカニズム関係の修復は比較的難しくはなかったという。だが、ボディとインテリアの作業は難航した。
パリのシャルル・ド・ゴール空港近くにシトロエンの博物館があり、ノーマルのB12が展示されている。そこでベイリーはフランス語を話せる友人とともに訪れ、詳しくクルマを調べさせてもらったそうだ。
観察と採寸でまとめられた手書きのメモは、英国中部のシュロップシャー州にあるコーチビルダーへ送られた。しばらくして届けられた簡素なボディの部品をベースに、ベイリー自ら丁寧な仕事を施した。
120時間が費やされた格子模様
デ・リトルが記憶をたどる。「鳥小屋として60年間使われてきたことで、細かな部分にも影響が出ていました」。それでも、フロントフェンダーは修復できたという。古い写真資料をもとに、リアフェンダーも成形された。
「かなりの部分を、彼が自分で手がけました。ボディの最終的な仕上げや、開閉するルーフの製作まで」。その仕上りは素晴らしい。シトロエンB12が初めてパリ市街を走った時のように、ピシリと整っている。
ボディのリア半分を覆う、カナージュと呼ばれる細かな格子模様は職人へ依頼したそうだ。あまりにも繊細で膨大な作業に、ベイリーはやる気を失ったらしい。
「ボディに水をスプレーして、模様の転写シートを軽くかぶせます。正しい位置に配置して、水を丁寧に絞り出しながら、剥離紙を剥がしていくんです。最終的にクリアーで塗装されています。仕上げるのに、120時間ほど要しているはずです」
「この手の技法は1920年代のイスパノ・スイザにも施されており、洗練された装飾だと受け止められていました。1960年代には、特別仕様のミニにも同様に模様が施されています。軽くボディを傷を付けただけでも、修復は簡単ではありません」
左右のドア中央を飾る、大きな金属製のシトロエン・マークも外注してある。「コールタールを用いた、古い彫金技術で作られています。一般的に金が銀を用いることが多いのですが、このクルマの場合は銅です。注目に値しますね」
この続きは後編にて。