ケン・ブロックが見せたドリフトの方法 857馬力の四駆マスタングでサーキット爆走

公開 : 2022.05.19 18:25

過激で華麗な唯一無二のドリフト

120dBの爆音の中、人の声など聞き取れないので、ただブロックの操作を見ているだけとなった。彼は左足でブレーキをかけ、ブルックランズの左コーナーに突入する。最初はごく普通のライン取りに見えたが、エイペックスに近づくと少しアウト気味になる。ブレーキを踏みながら、3速にシフトダウンしていく。スピードメーターはないが、80km/hくらいだろうか。

次の瞬間、ブロックは長いハンドブレーキに手を伸ばすと素早く引っ張り、バックエンドが大きく軋んだ。エイペックスを通過するときにサイドウィンドウを見ると、ラフィールドの右コーナーに45度くらいで刺しているのが見える。これまでドリフトやスライドは何度か見てきたが、ブロックはやりすぎてスピンするんじゃないかと思った。

フォード・マスタングをベースにした、ケン・ブロックのフーニコーン
フォードマスタングをベースにした、ケン・ブロックのフーニコーン

この状態が数秒続き、徐々にアタックアングルが小さくなってきたところで、スロットルを戻してフーニコーンを落ち着かせ、ノーズを立てる。すると、ノーズがグリップし、リヤのスライドが左右の振りに変化した。下手をすると、魚の尻尾のようになりかねない。

ブロックはそれを見事にやってのける。長いコーナーでは、より慎重にスロットルを調整している。フルスロットルだと直進してしまい、スロットルオフだとスピンしてしまう。その2つの間を巧みにキープしながら、カウンターをあてるなどしてステアリングを調節している。タイヤは常に、横方向にも縦方向にもグリップの限界を超えている。

スタートから約10秒後、コーナーから立ち上がり、車体がまっすぐになるまで加速し、そこで初めてブロックの動きが緩やかになる。どう呼ぼうと勝手だが、筆者の目から見れば、これはドリフトであり、これほど上手な人は他にいない。

運転席のブロックは、まだ微笑んでいる。

「フーニコーン」ってどんなクルマ?

ブロックの動画シリーズ『ジムカーナ』は当初、スバル車で撮影されていたが、フォードがスポンサーになるとWRC仕様のフィエスタに移行した。しかし、2015年はマスタング誕生50周年ということで、何か特別なものを作ることに。そこで、彼のチームは2年がかりで、1965年型マスタングをベースに「フーニコーン」を製作した。

ルーフやリアウイングの一部にはオリジナルの面影が残っているが、それ以外はほとんどオーダーメイドである。フルケージで強度を高め、Roush-Yatesの410エンジンがエンジンルームの奥、加工された独立サスペンションの後ろに収まっている。

フォード・マスタングをベースにした、ケン・ブロックのフーニコーン
フォード・マスタングをベースにした、ケン・ブロックのフーニコーン

リアサスペンションも精巧に加工され、シルバーストンを2周するごとに補給が必要な燃料タンクの近くに設置されている。プロペラシャフトとハーフシャフトはすべて特注品で、ダカールラリー用として設計されたサデヴ製6速トランスミッションをホイールに組み込んでいる。

ホイールは19インチで、ピレリのPゼロ・トロフェオRタイヤを装着。ピレリはドリフト用タイヤの製造を行っていないが、ケン・ブロックには標準タイヤよりも硬いタイヤを供給している。

ラリーへの挑戦

ロングビーチでスケートボードとともに育ったケン・ブロックは、コリン・マクレーに誘われてラリーに出会った。

「ラリーはいつもテレビで観ていたし、特にコリンは好きだった。やってみたら、自分にはちょっとした素質があることがわかったんだ」とブロックは言う。

ケン・ブロック
ケン・ブロック

ブロックが競技を始めたのは30代に入ってからだが、米国での個人ラリーで何度も優勝し、世界ラリー選手権でも好成績を収めている。しかし、彼の仕事の性質上、米国ラリーやWRCに一点集中的に挑むことはできない。

「スポンサーは僕にいろいろなことをやらせたがっているんだ。昨年(2014年)はグローバルとワールド・ラリークロス、米国ラリー、WRCを走ったし、僕のジムカーナグリッドやジムカーナ7もやった」

「1つのことに集中するのもいいだろうし、米国ラリーでの優勝は、競技をやめる前にぜひやってみたいことだ」

※本記事は2015年に英AUTOCAR誌で掲載されたものを翻訳・編集したものである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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