景色が早送りに見える アストン マーティン・ヴァルキリー AMRプロ 800psの助手席へ同乗
公開 : 2022.05.22 08:25
NA 6.5L V12エンジンで1万1000rpm
ひるがえって、フロリダは快晴。トラクションコントロールも完成している。コスワースが手掛けた自然吸気の6.5L V型12気筒エンジンは、800psに出力が制限されているというが、若干狭いインフィールド・コースなら不足はない。
不格好に身体を曲げて、助手席に腰を下ろす。車内はとてもタイト。運転席に固定されたプリオールは、操縦桿のようなステアリングホイールを自由に回せるよう、シートポジションを調整する。
グッドウッドの時とは違い、AMRプロであってもヴァルキリーにはエアコンが付いていて、動いている。フロントガラス越しの視界も、複数の補助モニターで覆われていない。
アストン マーティンとしては、快適な車内とはいえないかもしれない。それでも、圧倒的な走行性能を体験するマシンとして、仕上がった状態にはある。
AMRプロの発進は、駆動用モーターだけで賄われる。静かに加速するが、24km/hを超えた辺りで豪腕のV型12気筒エンジンが勢いよく目覚める。
ピットレーンを指定速度で進む。低回転域では機械的なノイズが盛大だと思いつつ、コースインするやいなや、1万1000rpmまで使い切った4周の全開走行が始まった。
頭にフィットするヘルメットをかぶっていても、車内に響くノイズが容赦ない。だが、グッドウッドで味わった公道用ヴァルキリーより、筆者へ伝わる振動は小さい。
景色を早送りにしたようなコーナリング
動力性能は甚大だが、手に負えないほどではないようだ。制限が解かれたAMRプロは、加速時に2Gを超える勢いを生むという。今日の800psの状態では、そこまで激しくシートへ背中が押さえつけられている感覚はない。
一方で、ブレーキング時に身体へ掛かる慣性は強力。ハーネスが、筆者の胸筋に食い込もうとする。
コーナリング時の横Gも凄まじい。フルブレーキング時に掛かる力より穏やかとはいえ、ダウンフォースがボディを支え、歯を食いしばるほど。首の筋肉が否応なしに鍛えられる。コーナー数が少なくて良かった。
プリオールが攻め込む走りは、まるで現実世界を早送りにしているよう。スリックタイヤが温まり、アクセルオンのタイミングが徐々に早くなる。それでも、ボディがスライドし始める様子もない。
コーナーへの侵入から脱出までの時間が、縮められたように短い。しかし、AMRプロもプリオールも、動じる気配すらない。フロントガラス越しに見える景色が嘘のようだ。
ピットレーンに侵入しスピードが落ちると、V12エンジンが自動的に止まった。どれだけ攻め込んでいたのか聞いてみる。「恐らく80%くらい。今日はこれを、1日中繰り返すんですよ」
筆者の次に助手席へ座ったのは、クリエイティブ・ディレクターのライクマン。筆者と同じくらい感嘆し、脂汗をかきながら降りてくる。「アストン マーティンに12年在籍していますが、これまでで最高の12分間でした」
アストン マーティン・ヴァルキリー AMRプロの生産数は、40台が予定されている。