世界市場の気づかない価値 ジャガーXJ220を振り返る ゴージャスなスーパーカー 前編
公開 : 2022.06.04 09:45
30年前、最速のスーパーカーとして発表されたXJ220。過小評価される伝説的モデルを、英国編集部が振り返ります。
同等に速く希少なスーパーカー
1960年代後半から始まった、スーパーカー時代。その勢いは衰えることなく、1980年代から1990年代半ばにかけて、動力性能の記録は次々に塗り替えられた。そんな1台へ憧れた、という読者も少なからずいらっしゃると思う。
クルマの進歩はその後も続き、当時の数字は驚くようなものではなくなった。だが、クラシックカーとして価値は上昇の一途にある。
フェラーリ288 GTOやF40、F50、ポルシェ959、ブガッティEB110やマクラーレンF1といった伝説的な希少モデルを入手するには、現在は7桁ポンド(数億円)の資金が必要になっている。英国製の特徴的な1台を除いて。
ジャガーXJ220は、生産数がフェラーリ288 GTOやポルシェ959と並ぶくらい少なく、圧倒的なマクラーレンF1を除いて、ライバルに負けず劣らず速い。過去にル・マンでクラス優勝を遂げてきたという、ブランドの確かな歴史もある。
しかも、それら多くのスーパーカーより仕立てはゴージャスで、ジャガーとしても前例がないほど。そんなXJ220が、近年は40万ポンド(約6400万円)程度で売買されている。驚くほど低調な値動きといっていいだろう。
ジャガーがXJ220を発表したのは、34年前の1988年。48バルブのV型12気筒エンジンを搭載する四輪駆動のスーパーカーとして、英国バーミンガム・モーターショーで大きな注目を集めた。
そして29年前の1993年、自動車雑誌としては唯一、AUTOCARではXJ220の試乗テストを実施した。貴重なダークブルーの1台をお借りして。
取り消されたル・マンでのクラス優勝
今日、筆者の目の前にあるXJ220は、偶然にも29年前にAUTOCARで試乗したクルマそのものだという。現在の所有者は、このスーパーカーの第一人者として知られる、ドン・ロー氏。 J999 JAGのナンバーを下げた、量産版の第1号車だ。
当初は、レーシングドライバーやレーシングチームのマネージャーとして活躍した、トム・ウォーキンショー氏が社用車として乗っていた。29年前のわれわれは彼に申し出て、特別なジャガーをいつもの試乗ルートへ連れ出したのだった。
ここで改めて、ジャガーXJ220をおさらいしておこう。スーパーカー時代のレジェンドの1台と表現しても構わないだろう。ドラマチックなスタイリングは極めて低く、実用性には欠けるが、とても速い。だが、それ以上の存在でもある。
ジャガーがこれまで生産した公道用モデルのなかで、最も速い。コンセプトカーから量産化に至るまで紆余曲折があり、内容は大きく変更され、生産開始も遅れた。
1993年にはル・マン24時間レースへ出場。GTクラスへXJ220 Cが3台投入され、見事にクラス優勝を掴み取っている。レース後、排気系から触媒が取り外されていたことが理由で、失格となったけれど。
ただし、当時の規則では触媒の取り付けが明記されていたわけではない。少なくとも公道用のXJ220には備わっていた。レースカーという理由で外されたのだろうか。