世界市場の気づかない価値 ジャガーXJ220を振り返る ゴージャスなスーパーカー 後編

公開 : 2022.06.04 09:46

30年前、最速のスーパーカーとして発表されたXJ220。過小評価される伝説的モデルを、英国編集部が振り返ります。

筋力と正確な操作が求められる運転

AUTOCARが試乗評価をしてから29年後、目の前にあるダークブルーのジャガーXJ220は、相変わらずひたすら速いマシンだ。運転席に座ったら、アナログなパッケージングを忘れてはいけない。

1993年の公道試乗では、優れた操縦性を高く評価した。乾いたアスファルト上で運転できたためだ。しかし、今日はずぶ濡れのウェット。XJ220と慎重に息を合わせる必要がある。

ジャガーXJ220(1991〜1993年/英国仕様)
ジャガーXJ220(1991〜1993年/英国仕様)

最高出力549psを発揮する、3.5L V6ツインターボ・エンジンがブースト圧を高め始めたら、ステアリングホイールは直進状態であるべき。それでも、アクセルペダルの操作から気を抜いてはいけない。

探りながらXJ220を走らせていくと、好感が深まっていく。数億円の価値はないにしても、貴重なスーパーカーをパワー任せにオーバーステア状態へ持ち込みたいとは思わない。

きれいなラインを保ちながら、スピーディーにカーブを縫いたいという挑戦心が湧いてくる。そして、それは間違いなく大きなチャレンジだ。ステアリングホイールもクラッチペダルも、5速MTのシフトレバー、ブレーキペダル、すべてが重い。

筋力が求められるが、正確な操作も求められる。メカニズムを操る必要があるだけでなく、敬意を持って接する必要もある。ボディはワイドで、運転席からの視界は限定的。常に、どう運転するべきか考えていなければならない。

世界市場が価値をまだ理解できていない

正しく運転すれば、XJ220が素晴らしいと感じられる。V6ツインターボが放つ、ザラついた厚みのあるサウンドにすっかりハマってしまった。

自分に丁度良いスピードを探り当て、心地良いリズムで操る。他のスーパーカーでは得られない、濃密な時間を堪能することができる。

ジャガーXJ220(1991〜1993年/英国仕様)
ジャガーXJ220(1991〜1993年/英国仕様)

公道最速のジャガーとして、ひたすら速さを求めたクルマかもしれない。しかし、クルマと丁寧に呼吸を合わせることで、開発に携わったトム・ウォーキンショー・レーシングから受け継いだDNAを、深く感じ取れる。

操作系が重いとはいえ、ナンセンスなほどではない。コーナリングスタンスはフラット。2基のターボが放つパワーは容赦ない。そのすべてを活かすか殺すかは、ドライバー自身にある。

XJ220から30年間という月日を感じないというのは、嘘になる。肉体的に求められる過酷さと、精神的な恐怖心は、現代のスーパーカーとは比べ物にならない。一瞬たりとも、気が抜けない。

しかし充分に理解し、賢明に操作すれば、速く運転することで得られる充足感も半端ない。克服したいという気持ちが湧いてくる。ドライビング体験の豊かさは、30年前とまったく変わっていないと感じた。スタイリングの美しさも。

2022年にあっても、ジャガーXJ220は孤高の素晴らしいスーパーカーだ。世界市場が、その事実に気付いていないか、理解できていないだけなのだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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