走行中のEVに、ワイヤレスで給電 山梨県など産学官5者が世界初「電界結合方式」で実験へ

公開 : 2022.05.26 20:45

非接触でEVに給電(ユーザーから見ると充電)する新技術「電界結合方式」の実証実験が、山梨県で始まります。世界初のことです。どのような取り組みか解説しましょう。

もう1つの非接触充電 実証実験へ

執筆/撮影:Wataru Shimizudani(清水谷 渉)

山梨県、甲斐市、学校法人 日本航空学園、富士山の銘水 株式会社、および富士ウェーブ 株式会社は、産学官の5者連携で、世界初の「電界結合方式」によるEVワイヤレス走行中給電の本格的な実証実験を開始する。

事業の開始に際し、2022年5月25日に都内で事業発表および協定式が行われた。

左から、富士ウェーブの溝内社長、富士山の銘水の粟井社長、山梨県の長崎知事、甲斐市の保坂市長、日本航空学園の梅沢理事長
左から、富士ウェーブの溝内社長、富士山の銘水の粟井社長、山梨県の長崎知事、甲斐市の保坂市長、日本航空学園の梅沢理事長    清水谷 渉

ワイヤレスによる電力伝送技術は、日常生活の未来を創造する可能性を秘めており、今回のEVをはじめ家電・住宅やロボット分野への応用も期待されている。

山梨県では、富士山の銘水グループで、ワイヤレス給電の研究や技術を活用した製品開発・製造・販売を行っている富士ウェーブが2021年2月に県内に設立されたことを契機に、ワイヤレス給電の技術に着目した。

同年11月には国立大学法人 豊橋技術科学大学を含めた連携協定を締結するなどの取り組みを進めてきた。

EVのワイヤレス給電方式は、停車中に行えるものや、走行中に行えるものでは「磁界結合(電磁誘導)方式」と「電界結合方式」が考えられ、それぞれ開発が進められている。

今回、富士ウェーブが開発した電界結合方式とは、舗装路面内にステンレスなどの金属平板を敷いて電気を流し、その上を車体の底面にアルミ板などを装着したEVが走行し、空間を隔てて対向する金属板の間で電力を伝える方式だ。原理的には、コンデンサーと同じものになる。

「磁界結合方式」との違い

つまり、EVはこの路面を走行するだけで充電が可能で、一般道なら20mくらい、高速道路なら40~50mくらいの間隔で電源を備える。

この方式は一般道だけでなく高速道路での使用も前提にしているので、EVの車速は100km/hでも走行中に充電することができる。

「この実証実験を契機に、新しい産業を山梨県に創出したい」と語る、山梨県の長崎 幸太郎 知事
「この実証実験を契機に、新しい産業を山梨県に創出したい」と語る、山梨県の長崎 幸太郎 知事    清水谷 渉

したがって、充電のための停車は不要となり、車載のバッテリー容量も最小限で済む。

また、急速充電が不要になることでバッテリーの充放電頻度は少なくなり、バッテリーの寿命も延びる。EV普及への貢献性は、きわめて高くなるというわけだ。

いままでの路面と車両にコイルを使う「磁界結合方式」では、コストや制御、そして安全性(路面に金属などがあると発熱する)などの問題から、実証実験や開発は滞っていた。

この「電界結合方式」は富士ウェーブが独自に開発したもので、安全性、省エネ、コストといった問題をクリアして、バッテリーEVが抱える課題を解決し、脱炭素社会における次世代自動車の決定版を目指す。

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    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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