最後まで新しかった BMW i3へ再試乗 純EV「i」ブランドの開拓者 7月で生産終了

公開 : 2022.06.02 08:25

クラスレスで今でも極めてモダン

2013年にi3が発表されると、多くの人が強い関心を寄せた。アウディでチーフデザイナーを努めた経歴を持つ、マイケル・アニ氏もその1人。フランクフルト・モーターショーで助手席に座って以来、すっかりファンになったらしい。

彼は現在、2台目のi3のオーナーでもある。これまで10人の友人に、このBMWを勧めてきたという。「これ以上のデザインはないと思いました。それは近年でも変わらないと思います」

BMW i3(英国仕様)
BMW i3(英国仕様)

「パワーと静寂性、ラウンジのような美しいインテリアという組み合わせは、今でも極めてモダン。クラスレスな存在で、クルマとして珍しい仕上りでもあります。特定のカテゴリーに当てはまることもなく、とても独自性が高いですよね」

しかしBMWの描いた理想は、一部の人にしか響かなかった。高い評価が集まった一方で、販売では日産リーフを超えることはなかった。10年間でリーフは50万台が顧客に届けられているが、一方のi3は、9年間で25万台を少し超えた程度だ。

BMWグループの広報を担当するヴィーラント・ブルッフ氏は、BMWとしてi3には出来得る限りを施したと説明する。また、社会環境が純EVの普及に大きな影響を与えると、実感したとも話す。

一般的に政府は、企業と同じスピード感で行動することはない。数年前までガソリン価格が比較的安定していたことも、もう1つの要因だろう。同時に多くのBMWユーザーは、純EVへシフトする準備が整っていなかった。

サブブランド「i」展開の布石

「当初、i3の購買層の70%が、ほかのブランドからの乗り換えでした。i3で試みたことは、従来のビジネスモデルとは大きく異なりました。一部は違いましたが、典型的なBMWファンはi3を買おうとしなかったんです」。とブルッフが説明する。

その後のBMWが、内燃エンジンと電気モーターの両方に対応できる、汎用性の高いプラットフォームを長く採用したのも、i3の経験を踏まえてなのだろう。だが、ブランドの電動化への試金石になったことも間違いない。

BMW i3(英国仕様)
BMW i3(英国仕様)

「i」というサブブランドを開拓し、幅広いカテゴリーのモデルへ展開する布石といえた。BMWたらしめる、白眉のドライビング体験は可能な限り残された。iXやi4といった最新の電動モデルを生み出す、方向性を定めたといえる。

近年の自動車業界は、特に欧州では、純EVへの傾倒が著しい。技術の進歩は加速するように進み、時代が既存モデルを追い越していく様な雰囲気すらある。しかし、i3は2022年のロンドンを運転していても不足なく新しい。

斬新なスタイリングは、今も古びることはない。i3自体が古びていない。運転も楽しいままだ。これこそ、BMWが成し遂げた素晴らしい成果を証明するものだといえる。なくなって初めて、存在の偉大さに気付くのかもしれない。

BMW i3(英国仕様)のスペック

英国価格:3万4750ポンド(約556万円)
全長:3999mm
全幅:1775mm
全高:1578mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:6.9秒
航続距離:281km
電費:6.8km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:1290kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
バッテリー:42.2kWhリチウムイオン
最高出力:183ps
最大トルク:27.4kg-m
ギアボックス:シングルスピード・リダクション

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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