市場から姿を消せば悲劇 トヨタGR86へ英国試乗 稀有なドライビングマシン 後編
公開 : 2022.06.09 08:26 更新 : 2022.08.08 07:09
少数ながら、英国へ上陸した2代目86。手頃な価格と運転へ深く惹き込まれる個性を、英国編集部は高く評価します。
グリップとスリップを行き来しやすい
2代目へ一新したトヨタGR86。まずはモンテブランコ・サーキットでの試乗から。
真っ先に好感を抱いたのが、乾燥しグリップの良いアスファルトでも、グリップとスリップとの狭間を行き来しやすいこと。テールスライドしたがる、若々しい個性は変わらない。素性の良さも伝わってくる。
高められた剛性によって、一層ドライバーの遊び心をくすぐってくれる。リアアクスルの直上に座っているような感覚がありつつ、フロントノーズを狙った場所へピンポイントで導ける。ねじり剛性が高められたことで、その精度も増したようだ。
コーナーへの侵入でアクセルペダルを緩めると、フロントがインへと食い込んでいく特性も好印象。その後の調整操舵も加えやすい。
水平対向エンジンは車両中央へ寄せられ、低い位置に搭載されているため、フロントタイヤへ掛かる荷重が抑えられている。これが、ステアリングレスポンスとフロントタイヤのグリップ力に、プラスの影響をもたらしているはずだ。
よほどドライバーが不器用でない限り、GR86がアンダーステアでズルズル流れることはないだろう。軽快なフロントの反応が、ひたすらに楽しい。
運転していて1つ気になったのが、ステアリングコラム。前後の調整域が小さめで、身長の高いドライバーの場合、理想的なペダルとの位置関係を作りにくいかもしれない。唯一、GR86の人間工学で惜しい点といえる。
一般道ですべてに近い体験を堪能できる
コーナリングに話を戻すと、シャシーの前後バランスも光る。そして、リアアクスルの振る舞いに、心が奪われる。
きれいにラインを保ちながら、自然に旋回できる。同時に、少し速めのスピードで侵入し、出口めがけてテールをわずかに外へ流すことも容易。不安感のない速度域でそれを楽しめる。
英国郊外の一般道で許される、97km/h(時速60マイル)を超える必要はない。日常的な環境でも、すべてに近い体験を堪能することができる。ただし、GR86にはそれ以上の領域もある。
モンテブランコ・サーキットには通過速度の高い登りの右コーナーがあり、入口から出口が見えない。そこで4速に入れたまま、痛快な4輪ドリフトに持ち込むことができた。レーサー級のスキルがなくても、ダンスするように操れるのだ。
トヨタがアップデートしたシャシーも素晴らしいが、そのセットアップの絶妙さも秀抜。この小さな2+2クーペをどう仕立てたいのか、技術者は正確に理解していたのだろう。
サーキットから公道へ出れば、走りの温度感は低くなる。かといって、つまらない訳ではない。
サスペンションのスプリングとダンパーのレートは僅かに高められており、姿勢を乱さず、ボディロールを抑え込むというシンプルな仕草が心地良い。乗り心地に、少し洗練性が欠けていたとしても。