市場から姿を消せば悲劇 トヨタGR86へ英国試乗 稀有なドライビングマシン 後編

公開 : 2022.06.09 08:26  更新 : 2022.08.08 07:09

アクセルペダルでの姿勢制御も容易

ここで重要な役目を果たしているのが、1276kgと軽い車重。繊細にコミュニケーションを取りやすい。指先でステアリングホイールを回せば、フロントタイヤの仕事ぶりを触覚でも感じ取ることができる。

豊かなフィードバックで、自然と操る自信が高まる。すべてが極めて直感的。闇雲にスピードを高める必要はない。

トヨタGR86(欧州仕様)
トヨタGR86(欧州仕様)

6000rpmで最大トルクの20.8kg-mを発生した先代とは異なり、GR86では25.3kg-mを3700rpmから得られる。より手前側で、たくましい力が得られる点もプラスに働いている。

カーブが連続する区間では、ずっと爽快に駆け抜けられる。ターボ加給されるホットハッチほどではないにしろ、素早く立ち上がり次のコーナーを意欲的に目指せる。

コーナリング中は、アクセルペダルでの姿勢制御もしやすい。この懐の深いマナーこそ、GR86最大のストロングポイント。2.4Lへ排気量が拡大された水平対向4気筒エンジンの、1番の効果だといいたい。

他方でこのエンジンは、存在感が控えめ。パワーアップし、合成音で聴覚面でのアピール力が補強されているとしても、基本的には実務的なユニットだ。

エネルギー効率も高いとはいいにくい。GR86の燃費は平均で11.4km/L。2.0L 4気筒ターボを積んだスープラの方が13.7km/Lと良好で、マツダMX-5(ロードスター)は14.0km/L以上も走る。

2024年に英国から姿を消す悲劇

そろそろまとめに話を移そう。2代目へ進化したGR86は、理想を並べるなら完璧とまではいえないだろう。まだ伸びしろがあると思う。

もし、自然吸気エンジンとマニュアル・ギアが組み合わされた、手頃な価格のジュニアスポーツカー市場が市民的なものだとしたら。恐らくエンジンやトランスミッション、インテリアで、GR86より優れるモデルが存在するはず。

トヨタGR86(欧州仕様)
トヨタGR86(欧州仕様)

しかし現実の世界では、3万ポンド(約480万円)を切るこんなクルマは、ほかに存在しない。仮にもう1台ライバルがあったとしても、ケータハム・セブンに迫るようなハンドリングを叶えているとは限らない。

新しいGR86は、日常的に乗れ、古典的な魅力を備えた、地球への負担が小さい稀有なスポーツカーだ。シンプルで楽しく、一体感があり運転に深く惹き込まれる、シリアスなドライビングマシンだといえる。

こんなクルマがもっと多ければ、と嘆きたくなる。2024年に英国市場からトヨタGR86が本当に姿を消すのなら、それは悲劇としかいいようのない事実だ。

トヨタGR86(欧州仕様)のスペック

英国価格:2万9995ポンド(約479万円)
全長:4265mm
全幅:1775mm
全高:1310mm
最高速度:225km/h
0-100km/h加速:6.3秒
燃費:11.4km/L
CO2排出量:200g/km
車両重量:1276kg
パワートレイン:水平対向4気筒2387cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:234ps/7000rpm
最大トルク:25.3kg-m/3700rpm
ギアボックス:6速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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