特別の中の特別 4世代のBMW M3を振り返る  スポーツ・エボ/GT/CSL/GTS 中編

公開 : 2022.06.18 07:06  更新 : 2022.08.08 07:09

BMWきっての高性能モデルといえば、M3がその筆頭。歴代に存在した特別仕様4台を、英国編集部がご紹介します。

シリーズ歴代で最大の成長を遂げたE36型

E30型BMW M3 スポーツ・エボリューションの車内には、マップランプやグラブハンドルがない。ヘッドライトやボンネット、フロントグリルからはラバーマウントも省かれている。シリアスな走りのための、些細な妥協でしかない。

燃料タンクは、通常のE30型M3が積む70Lから62Lへ削られている。思わず運転にのめり込んでしまうスポーツ・エボリューションで、唯一不満に思う部分かもしれない。

BMW M3 GT(E36型/1994〜1995年/欧州仕様)
BMW M3 GT(E36型/1994〜1995年/欧州仕様)

2代目の成功を追い風に、3シリーズ歴代で最大といえる成長を遂げたのが、1990年に登場した3代目のE36型。洗練性や安全性、実用性が大幅に高められていた。

2代目となるM3も同様に投入されたものの、こちらはモータースポーツへの必要性というより、マーケティング的な意向が強いとファンからは見られてきた。確かに、フェンダーを膨らませたツーリングカー・レーサーの公道仕様とは、趣きが少々違う。

見た目は、通常の3シリーズ・クーペと大きな違いはない。90年代の、保守的な空気が漂う。とはいえ、ブリティッシュレーシング・グリーンのM3 GTを間近で見れば、モータースポーツとの濃い関係性を感じ取れる。

フロントのリップスポイラーは角度調整が可能で、リアのトランクリッドには立ち上がったウイングが装備される。ホイールはGT専用。フロントが7.5J、リアが8.5Jとワイドで、しっかり路面に構えたスタンスが勇ましい。

長いドアを開くと、軽いアルミニウム製だと実感する。インテリアは、E30型と比べると遥かにリッチ。シートの調整域も広い。

可変バルブ制御のヴァノスを初めて採用

バケットシートの中央は、メキシコグリーンと呼ばれる色のレザーで仕立てられている。ダッシュボード周りは、カーボンファイバー製のトリムで飾られる。ボディカラーとコーディネートされ、購買層の気持ちをソソったことだろう。

スターターを回してエンジンを始動すると、すぐに静かなアイドリングに落ち着く。フロントには、S50B30と呼ばれる3.0L直列6気筒エンジンを搭載するものの、特別感はやや薄い。

BMW M3 GT(E36型/1994〜1995年/欧州仕様)
BMW M3 GT(E36型/1994〜1995年/欧州仕様)

例によってシリンダー毎にスロットルボディが用意され、ボッシュ・モトロニック燃料インジェクションは3.3へ進化。バリアブル吸気バルブタイミング機構、ヴァノスを初めて採用している。最大トルクは32.5kg-m/3600rpmを発揮した。

このM3 GTの場合、ホットなカムシャフトが組まれ、最大トルクはさらに0.4kg-mだけ太い。発進させてみると、低回転域からたくましい。エンジンノイズは静かで、インテークから控えめに共鳴音が響いてくる程度だ。

そのまま右足へ力を込めると、スピードが急上昇。フライホイールは軽くないはずだが、シャープなM3 GTの性格がつまびらかとなる。自ずと、レザー巻きステアリングホイールを握る力も増す。景色が急速に流れ始める。

コーナーへ飛び込めば、巧妙に設計されたマルチリンク式Zアクスル構造を備える、シャシーの有能ぶりが見えてくる。強化されたボディ剛性とフロント・サスペンションの効果も、それに重なる。車重は通常のE36型M3より30kg軽い。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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