特別の中の特別 4世代のBMW M3を振り返る スポーツ・エボ/GT/CSL/GTS 後編
公開 : 2022.06.18 07:07
サーキットの走行会がターゲット
もちろん、今回のオレンジ色のM3 GTSのフロントにも納まっている。カーボン製ルーフも標準装備だった。E46型M3 CSLの流れをくむ、ハードコアな容姿に仕上がっている。
この頃には、BMW M社の重要性も高まっていた。モータースポーツ以外での、公道でのアイデンティティも明確化されていた。それを受けて、GTSもツーリングカー選手権が前提ではなく、ファンによるサーキット走行会へターゲットが向けられていた。
既にパワフルな自然吸気のS65型V8エンジンは、4.0Lから4.4Lへと拡大。30psと4.1kg-mが上乗せされ、450psと44.8kg-mを発揮した。軽量なチタン製サイレンサーを備えたエグゾースト・システムは、素晴らしい咆哮を放った。
パワーアップと同時にリア・サブフレームも強化され、専用サスペンションで車高はダウン。フロントブレーキは、6ポッドのキャリパーが強力に挟む。
ドアを開くと、軽量なバケットシート以前に、ハードコアなロールケージが目に飛び込んでくる。ダッシュボードにはカーボン製トリムが大胆に用いられるが、センターコンソールは飾り気がない。ふんだんなスイッチ類は、2000年代後半のBMWらしい。
E92型M3 GTSのパフォーマンスは巨大。一般的な公道では発揮しきれない。アクセルペダルとステアリングホイールは、過敏にすら感じられる。サスペンションは硬く、常にソワソワと落ち着かない。
公道で乗れるレーシングカーといえるCSL
それでも滑らかな環境に出れば、M3 GTSの本領に迫れる。V8エンジンがエネルギーを爆発させ、タイトなシャシーが目覚ましいグリップ力を発揮し、デュアルクラッチATが迅速にシフトチェンジを繰り返す。
4.4LのV8エンジンは期待するより静かだが、レブリミット間際で響かせる雄叫びには酔いしれてしまう。特別なM3 GTSをすべてを発揮するには、サーキットが必要だ。2010年の発売と同時に、135台という限定数はすぐに売り切れたという。
1986年以来、BMWは20万台以上のM3を販売してきた。Mモデルへの信仰の厚さを物語る数字だといえる。
E36型のGTとE92型のGTSも、それぞれの時代背景を反映し、完成度は高い。とはいえ、BMWモータースポーツ社による実戦に向けたシリアスさを堪能できたE30型は、歴代のM3でもひときわ特別だろう。唯一、E46型のCSLを除いて。
公道で乗れるレーシングカーといえる性格付けが、他では得られないスリリングな体験を与えてくれる。しかも、過去最高と評すべきストレート6が納まっている。自宅へ連れて帰りたいM3は?と聞かれたら、E46型のCSLだと筆者は答えるだろう。