モーガン・プラス8スピードスター

公開 : 2014.07.07 23:40　　更新 : 2017.05.29 19:16

■どんなクルマ?

英国で開催された “グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2014” で新型のモーガン・スピードスターがお目見えした。これはモーガン・プラス8の改良版であり、モーガンの拠点である英国マルヴァーン工場が生産100周年を迎えたことを記念するモデルだ。

変更点は毎度のごとく、ほんのわずかであるが非常にツボを押さえている。フロント・ウインドーの面積を減らしコクピットがほぼむき出しとも言えるデザインはこのクルマを最高に映えさせる要素のひとつであり、モーガンの限定車といえば不必要なものを取り除きよりシンプルに見せるのが常で今回も例に漏れず秀抜な外見の一台となった。

フロントウィンドウは二つのドーム型に成型された強化プラスチック製でヘッドレストの後方にはロールオーバー・バーが装備されている。車体側面から覗くマフラーとボンネットを固定する革素材のベルトが完璧なまでにノスタルジックを醸し出し、オプションではあるが “古き良き” を助長するためにスティール・ホイールに似せて黒く塗装されたアルミ・ホイールが花を添える。

いい意味でこれは素のモーガン・プラス8なのかもしれない。というのはこのクルマが人間の感性に訴えてくるからであろう。アルミ製シャシーのもとに接合し固定された英国製のアッシュ・フレームにボディパネルが乗せられる構造であり、スピードスターは標準のプラス8と同じくBMW製V8 4.8ℓエンジンで以前からの6速ATにパドル・シフトが追加搭載される。

■どんな感じ?

数年前にオリジナルのモーガン・プラス8を試乗した際に我々はこのクルマの非現実さ、また実用性ゆえ少しのお目こぼしで星3つとしたが今回のスピードスターでは堅実にディティールを見て行くこととしよう。

確かにモーガンは天候に左右され日常用途で使うクルマでは決してないので、ガレージから出す頻度は必然的に少ないものの、西日輝く夕方にこのクルマと共に走ってみればそんな実用性などと言う浅はかな考えは吹き飛んで行くことになるだろう。

事実ドライバーズ・シートに腰を下ろし、V8の響きを体験したが最後、以降勝手にスピードスターの怪しげなドアへと手が伸びることになる。

しかしここでプラス8の良くない点も挙げておこう。内部は想像以上に現代的なクルマではあるがまずロマンチックという言葉とは無縁であり、また街中で知らない人から見れば “ガラスと金属を寄せ集めて造った変てこな物体が走り去って行った” と捉えられても仕方がない。

左ハンドル仕様のペダルのオフセットは良好とは言えず非常に窮屈であるが、ATと力強いV8エンジンのお陰で比較的長距離を走っても疲れやすいクルマではない。ZF製のトランスミッションは適切なギアを選ばずともトルクフルなエンジンに助けられ忙しくダウンシフトをすることもまずないのである。またフロントウィンドウから容易に想像つく通りに風を受けて走ることとなりヘルメットや帽子は持ち合わせた方が良い。

キビキビと走るに違いないと推測できるが、実はその上を行くものである。ブレーキ・コントロールは難しく調和の乏しいステアリングに加えてストローク量が少ないサスペンションはコーナーへと差し掛かるドライバーに緊張感を与え続ける。新しく追加されたパドル・シフトはモーガン社がモーガンらしさを自ら捨て去るように感じられて残念でならず、やはりこのクルマにはMTこそが相応しいと思わせる結果となった。

■「買い」か?

スピードスターは60台限定である。その一言で十分説得力があり、これは誓って買いだ。

しかしこのクルマに完璧なハンドリングを求める筋金入りのエンスージアストや英国式の洗練を期待する者にはその限りでない。

モーガンは現代でも古き良きモーガンである。そして今となってはこのスピードスターも例に漏れずすばらしいクルマの代表であり特異で希有なV8オープンなのだ。また怒り出さずに聞いてほしいのだが価格はちなみに￡70,000(1,225万円)となる。

スピードスターは伝説のモーガン3ホイラーに次いでいる。そして何よりこのクルマが証明するものは “マルヴァーン工場” が依然として魔法がかったクルマをしっかりと確実に製造し続けているということなのだ。

(ニック・カケット)