BMW Z8にクーペがあったなら スミット・ヴィークル・エンジニアリング・オレサへ試乗 前編
公開 : 2022.06.12 08:25
クーペが存在しなかった台数限定のBMW Z8。ある兄弟によって生み出された特別なクーペへ、英国編集部が試乗しました。
E86型のBMW Z4クーペがベース
清々しい陽気の午後、スミット兄弟が筆者をアメリカ・カリフォルニアのパシフィックコースト・ハイウェイで待っていた。ここは気持ちいいカーブが続き、太平洋を望む絶景を楽しめる、世界でも有数のドライビングルートだ。
前例がないほど魅力的なクルマだと兄弟が主張する、美しい黒いクーペも一緒に停まっていた。ブランドのファンならご存知かもしれないが、BMWは限定生産のZ8でクーペは作らなかった。
しかし、目の前にあるクルマは、まさにそれ。知らない人が見れば、2000年から2003年の間に作られた珍しい1台だと勘違いしそうだ。
ケス・スミット氏とウィレム・スミット氏は、お互いに優秀なエンジニア。航空宇宙産業ではテスラ社で、自動車業界ではレストモッドを得意とするシンガー社で、それぞれ実績を積んできたという。
まだ若い2人は仲が良く、熱烈なBMWファンでもある。そんな兄弟はある日、近年のレストモッド・モデルへの高い需要に気がついた。柔軟な発想力を持つ彼らは、スミット・ヴィークル・エンジニアリング社を立ち上げ、協力して1台のクーペを作り上げた。
その名を、スミット・ヴィークル・エンジニアリング・オレサという。Z8という2文字が並んでいない理由は、実際には2006年から2008年にかけて生産された、E86型のBMW Z4クーペがベースだからだ。
流麗なZ8クーペにしか見えない
筆者はデザインに関して造詣が深くないものの、オレサのスタイリングは美しいと思う。兄弟もデザイナーではないというが、今まで存在しなかった、とても流麗なZ8クーペにしか見えない。読者の印象はいかがだろう。
ボディサイズは、E86型Z4からリアセクションが250mm伸ばされている。全幅は50mm狭いという。全長が4350mm、全幅は1850mmと、比較的コンパクトにまとまっている。
Z8にそっくりなボディパネルは、兄弟オリジナルのカーボンファイバー製。シッカリしたプラットフォームを持つ、Z4に合わせてプロポーションが整えられている。非常にレアなZ8を素材に、モディファイされているわけではない。
E86型のZ4は、最初にロードスターとして設計され、その後にクーペが開発されている。そのため、ボディシェルは強固。ねじり剛性は3万2000Nm/degあり、Z8より遥かに頑丈なのだという。
スミット兄弟は、モノコック構造を変更することは考えなかった。衝突時の安全性も加味して設計された高剛性の構造を加工すると、良い結果が得られない可能性があるためだ。
そのかわりというべきか、メカニズムへは相当に手が加えられている。少量ながらオレサの販売を前提としており、中古車価格が高騰するZ4 Mと同等の能力では、実際に購買層が動くとは考えにくいためだという。美しいボディに包まれていたとしても。