アップル号はまだ先? 巨大企業アップル、クルマの「製造・販売」と距離をとるワケ

公開 : 2022.06.07 12:53

アップルと自動車事業の距離感

大きな理由は、自分たちの理想的環境構築にクルマの進化が追いついていないということではないでしょうか。

アップルが考えるビジネススキームは知る由もありません。

アップルは、自動車事業との間合いを計っていると筆者。
アップルは、自動車事業との間合いを計っていると筆者。    シャッターストック

ですが、丸いハンドルやペダルを駆使して動かす内燃機のクルマをみずからこしらえて売る従来からのモデルなど眼中にないことは想像できます。

彼らの目指すハードウェアは自分たちのアセットが充分にいかせる、レベル3以上のオートノマス環境が前提で、自ずとそれはBEVになると。そういったところではないでしょうか。

たとえばお出かけ前に手持ちのアイフォンで行き先を検索しておくと、アップル号(仮称)に乗り込んだだけでそれが反映され、自動運転がスタートする。

走行中は車内でアップル・ミュージックやアップルTVなどのコンテンツが利用できるし、マックブックをペシペシ打ってお仕事に励んでもらってもいい。

車窓にはHUDで周囲の観光スポットや店舗などの情報がARで投影され、行きたいところを「ポチれば」寄り道もできる。

そんなアップル号を使いたい時は、アップル・ウォッチを「ポチる」だけ。

約束の時間には自分の元へとやってきて、フェイスIDで本人認識すればお望みの行程で運行してくれる。

そんなモビリティが月々ン万円の定額利用料金で、24時間365日利用できますよ~と。

以上は僕の勝手な妄想です。

が、このくらいのことが出来なければアップルが今さらわざわざクルマの世界にうって出る意味はないだろうとも思います。

一方で車体がそれを受容する状況でない。

製造・販売=「ヤバい賭け」?

それはハード自体の先進性もさておき、多分に自動車メーカーの矜持が関わってきます。

お察しのとおりで、考えられうる安全項目については必達が必定、工数が嵩めど絶対に妥協しないということです。

ソニーモビリティ「VISION-S 02」(左)と「同01」(右)
ソニーモビリティ「VISION-S 02」(左)と「同01」(右)    ソニー

GAFAのようなビッグテックは走りながら考えることが大前提でしょうから、ここはまるで相容れない。

自動運転なんか要素技術は整ってるんだからさっさと回しちゃえよといわれても、そこは考えすぎて走れない自動車メーカーの譲れない一線なわけです。

先のCESで、ソニーはモビリティカンパニーを別途発足し、自動車事業参入の可能性を検討すると発表。

ですが、それを早とちりしたメディアによってBEV参入と短絡化され、後の決算発表の場でCFOが火消しに回ったという顛末がありました。

クルマの製造販売には膨大な投資や雇用維持が必要で、それがワンミスで御破算に至るほど脆く、そこまでリスクを冒しても利益率が10%いけば万々歳……と、そういうヤバい賭けだということを重々承知しているのでしょう。

とにかくボタンの掛け違いをステークホルダーに正しておく必要に迫られたのだと思います。

アップルもまた、GAFAにあって生産委託ながらもモノづくりを生業とする会社です。

その大変さも理解しているでしょうし、ハードの魅力がブランドの収益力の礎となっている一面もあります。

みずからが完璧といえるモビリティ体験を提供するには、社会環境的にもう少し時間がかかるかもしれない、そう考えているのではないでしょうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事