100年前は英国2番手ブランド ベルサイズ15hpを振り返る 非力だった2.8L 4気筒 前編

公開 : 2022.06.25 07:05

一次大戦前にはフォードに次ぐ規模へ成長

この事業展開は、収益性の高い中流階級向け自動車市場への進出・拡大にも貢献した。同じマンチェスターにはフォードも拠点を置き、初の量産車、モデルTを展開していた。だがベルサイズも負けじと、3.0Lから11.7Lの排気量を持つクルマを大量生産した。

ベルサイズのモデルたちは正常進化を辿り、1906年に発表された24/30には、シャフトドライブの駆動系に5880ccの直列6気筒エンジンを搭載。2年後には40hpと60hpも発売された。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

マンチェスターには、クロスリー社というライバルもあった。それでもモデルレンジの幅や最高出力などを比べると差は大きく、第一次世界大戦を生き延びることはできなかった。

一方のベルサイズは、英国最大の自動車メーカーとなったフォードに次ぐ規模へ成長。1914年までに6000台のクルマがラインオフし、英国2番目のブランドとして確かな評価を獲得していた。

1913年の従業員は約1500名。その時には、年間3000台の量産体制にあったという。

ところが、今回ご紹介する15hpの発売から6年後に、同社は倒産してしまう。明るい未来を導くことができなかった理由は何だったのか、貴重な1台を紐解いてみよう。

スペックや実車を観察してみても、その明確な手がかりは感じられない。だが1919年当時、15hpはベルサイズとして唯一の、戦後モデルになっていたことは事実だ。

上質さを感じる見た目と信頼性の高さ

エンジンはオリジナルのモノブロック・サイドバルブを採用した直列4気筒。ロングストローク型で排気量は2799ccある。ゼニス社製のキャブレターで混合気を送り、当時のRACと呼ばれる基準で20.1bhp(20.3ps)を発生した。

カムシャフトで駆動するチェーンで、冷却ファンを回転。さらにファンから伸びる2本目のチェーンが、ダイナモ(発電機)を回している。

ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)
ベルサイズ15hp(1919〜1923年/英国仕様)

トランスミッションは4速のマニュアル。コーンクラッチが備わり、後輪を駆動する。ブレーキはドラムでリアにしか備わらないが、当時としては一般的な仕様といえた。

シャシーには、13フィート6インチ(約3844mm)と、14フィート(約4267mm)の2種類の長さが用意されていた。当時の価格は400ポンドから。今回の試乗車のような、4シーター・ツーリングボディの場合は540ポンドだった。

ダイナモで点灯するライトにクラクション、スペアタイヤ、フロントガラス、ツールキットなどが標準装備。今回のクルマの場合はセルフスターター付きで、さらに30ポンド高かったという。

15hpのボディは、それほど強い印象を与えないものの、醤油顔的にハンサム。当時のオースチンやサンビームなどと並んでも、見劣りすることはなかったはず。上質さを感じさせる保守的なルックスに加えて、機械的な信頼性の高さが評価されていた。

内容を知るほどに、ベルサイズ社の経営を傾けた理由が見えなくなる。一見すると、15hpの内容は悪くない。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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