最上級コンバーチブル ロールス・ロイス・シルバークラウドIII キャデラック・シリーズ62 後編

公開 : 2022.06.26 07:06

雲に浮いたように静々と走る

コイルスプリングが支えるキャデラックの乗り心地は、クラウドより柔らかい。だが、英国のように荒れた路面を少し高めの速度域で走ると、前後左右にボディが揺れてしまう。

たくましいエンジン任せにスピードを出したくなるが、ドラムブレーキはすぐに過熱するから、気持ちは抑えた方が良い。以前、ベーパーロック現象を起こしたことがある。当時最高水準といえたドラムブレーキを持つ、ロールス・ロイスとは異なる。

キャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル(1960年/英国仕様)
キャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル(1960年/英国仕様)

比べるとボディ幅の狭いロールス・ロイスは、ドライビングポジションが起き気味。郊外の道を、より気軽に駆け回れる。操舵に対する反応は一定しており、タイトなコーナーでも自然に大きなボディを導ける。路面からの感触も、良く伝わってくる。

キャデラックのステアリングホイールは片手で軽々と操れるほど軽く、これはこれで狭い道で有効。しかし、手応えは非常に薄い。細身のリムを回して、大きなフロントノーズの向きを変えるという「ハンドル」に過ぎない。

運転席からの視界はともに良好で、見た目以上に扱いやすい。そして、メカニズムは至って静か。

シルバークラウドは文字通り雲に浮いたように静々と走るが、アクセルペダルを踏み込むと、キャデラックより若干大きいノイズが聞こえる。とはいえ、ボンネットの内側で空気が勢いよく流れるような、洗練されたものではある。

キャデラックには、V8エンジンらしいドロドロとした響きが常にうっすら伴う。スチール製のビッグブロックらしい。

独善的なカリスマ性やエレガントさ

1960年代初頭の巨大なコンバーチブルは、今見ると余りに浮世離れしている。キャディラックで狭い駐車場を曲がれば、尖ったフィンが子供の顔を刺しそうだ。

燃費は3.5km/L前後でしかなく、巨大なV8エンジンを載せたボディが、2022年のヴィーガン的環境でヒーローになることはないだろう。効率性という言葉とは、無縁だといっていい。

ブルーのロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペと、シルバーのキャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル
ブルーのロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペと、シルバーのキャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル

1962年式のロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペも、1960年式のキャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブルも、そんな社会を無視するように強い独自性を放っている。

あくまでも非常に裕福な人々を、豪華で素早く、心地よく移動させるためのクルマとして作られている。オーナーを喜ばせるための、最高が目指されていた。

それ故に、21世紀では見られない、独善的なカリスマ性やエレガントさが漂っている。一度乗れば、より単純だった時代へワープしそうな、そんな存在感だ。

協力:クラシック・オートモビルズ・ワールドワイド社

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

最上級コンバーチブル ロールス・ロイス・シルバークラウドIII キャデラック・シリーズ62の前後関係

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