完璧主義のレストア ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスター ネジ1本までオリジナル 後編
公開 : 2022.07.03 07:06 更新 : 2022.08.08 07:07
航空機を製造するような環境で組み立て
本格的な量産前の、プロトタイプに近い状態だったことを示す部分も多くあった。ボンネットは、両端の仕上げが量産版とは異なる。販売台数が読めず、成形型へ投資される前に作られたのだろう。
幸いにも、その特別なボンネットはほぼ作業が不要だった。160 RKJのナンバーで登録されて以降、事故で損傷していない証拠といえる。
ボディにはリベットが多く使われており、その後のEタイプにはない特徴といえ、専門家の協力で複製されている。摩耗していたリアアクスルのハブも、初期のEタイプ固有の部品。ブリッジズは費用を投じて3Dスキャンを依頼し、新しい部品を作っている。
組立作業の殆どは、ブリッジズの自宅ガレージで進められた。暖かく乾燥していて、航空機を製造するような環境だった。安全に関わる部分は正しいトルク値で固定され、記録してあるそうだ。
レストアは、Eタイプの誕生60周年へ間に合わせるというリミットもあった。そこでドライブトレインは、専門家によってリビルドされている。
エンジンとトランスミッション、リアアクスルは、ジャガーで技術者を努めていたビル・ヘインズ氏の孫、ウィリアム・ヘインズ氏に任された。ブリッジズの要求を理解し、達成できる技術を持つ数少ない人物だ。
走行距離が短く、交換する必要のない部品は多かったという。「トランスミッションとリアアクスルは、基本的にクリーニングとリビルドで済んでいます」
プロセスに喜びを感じるというマインド
レストア作業と並行して、ブリッジズは160 RKJの最初のオーナー、ピーター・ライト氏へ連絡を取っていた。残念ながら完成前に他界してしまったが、英国の高速道路、M1号線で241km/hの最高速度を超えた思い出を話してくれたそうだ。
完成したシリーズ1 ロードスターは、ジャガーEタイプの60周年記念ミーティングで、ライトの息子たちと再会。父親の運転でドライブした記憶を聞かせてくれ、見事にコンクールで優勝すると、涙を流して喜んでくれたらしい。
しかも彼らは、オリジナルの整備記録と保証書、サービスブック、オーナーズハンドブック、パンフレットなどを持参。販売したディーラー、KJモーターズ社の書類もブリッジズに手渡してくれた。
クルマへ情熱を傾ける人が減るなかで、時間を掛けて自らの理想を追い求め、見事に完成させた本人と出会うことは貴重な機会だ。それでも完璧主義のブリッジズは、まだ満足していないようだった。恐らく、今後も難しいだろう。
これほど拘ったクラシックのオーナーになるには、少し特別なマインドが必要だと思う。所有することではなく、リビルド作業や調査など、プロセスに喜びを感じる人でなければ難しい。
しかもブリッジズは、オリジナルの内装を守るため、シリーズ1 ロードスターに乗る時はストッキングで靴や足を覆っている。公道を走った後は、数時間から数日を掛けて、徹底的に掃除するという。
そのひとつひとつが、彼の心を満たしてくれるのだろう。筆者には真似できそうにない。
協力:ワーウィック城