完璧主義のレストア ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスター ネジ1本までオリジナル 後編

公開 : 2022.07.03 07:06  更新 : 2022.08.08 07:07

航空機を製造するような環境で組み立て

本格的な量産前の、プロトタイプに近い状態だったことを示す部分も多くあった。ボンネットは、両端の仕上げが量産版とは異なる。販売台数が読めず、成形型へ投資される前に作られたのだろう。

幸いにも、その特別なボンネットはほぼ作業が不要だった。160 RKJのナンバーで登録されて以降、事故で損傷していない証拠といえる。

ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスター(1961年/英国仕様)
ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスター(1961年/英国仕様)

ボディにはリベットが多く使われており、その後のEタイプにはない特徴といえ、専門家の協力で複製されている。摩耗していたリアアクスルのハブも、初期のEタイプ固有の部品。ブリッジズは費用を投じて3Dスキャンを依頼し、新しい部品を作っている。

組立作業の殆どは、ブリッジズの自宅ガレージで進められた。暖かく乾燥していて、航空機を製造するような環境だった。安全に関わる部分は正しいトルク値で固定され、記録してあるそうだ。

レストアは、Eタイプの誕生60周年へ間に合わせるというリミットもあった。そこでドライブトレインは、専門家によってリビルドされている。

エンジンとトランスミッション、リアアクスルは、ジャガーで技術者を努めていたビル・ヘインズ氏の孫、ウィリアム・ヘインズ氏に任された。ブリッジズの要求を理解し、達成できる技術を持つ数少ない人物だ。

走行距離が短く、交換する必要のない部品は多かったという。「トランスミッションとリアアクスルは、基本的にクリーニングとリビルドで済んでいます」

プロセスに喜びを感じるというマインド

レストア作業と並行して、ブリッジズは160 RKJの最初のオーナー、ピーター・ライト氏へ連絡を取っていた。残念ながら完成前に他界してしまったが、英国の高速道路、M1号線で241km/hの最高速度を超えた思い出を話してくれたそうだ。

完成したシリーズ1 ロードスターは、ジャガーEタイプの60周年記念ミーティングで、ライトの息子たちと再会。父親の運転でドライブした記憶を聞かせてくれ、見事にコンクールで優勝すると、涙を流して喜んでくれたらしい。

ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスターとオーナーのポール・ブリッジズ氏
ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスターとオーナーのポール・ブリッジズ氏

しかも彼らは、オリジナルの整備記録と保証書、サービスブック、オーナーズハンドブック、パンフレットなどを持参。販売したディーラー、KJモーターズ社の書類もブリッジズに手渡してくれた。

クルマへ情熱を傾ける人が減るなかで、時間を掛けて自らの理想を追い求め、見事に完成させた本人と出会うことは貴重な機会だ。それでも完璧主義のブリッジズは、まだ満足していないようだった。恐らく、今後も難しいだろう。

これほど拘ったクラシックのオーナーになるには、少し特別なマインドが必要だと思う。所有することではなく、リビルド作業や調査など、プロセスに喜びを感じる人でなければ難しい。

しかもブリッジズは、オリジナルの内装を守るため、シリーズ1 ロードスターに乗る時はストッキングで靴や足を覆っている。公道を走った後は、数時間から数日を掛けて、徹底的に掃除するという。

そのひとつひとつが、彼の心を満たしてくれるのだろう。筆者には真似できそうにない。

協力:ワーウィック城

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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