ベントレー・コンティネンタルGTスピード
公開 : 2014.07.15 23:50 更新 : 2017.05.29 19:03
■どんなクルマ?
あなたが並々ならぬ胆気とたっぷりな時間、それに自由に使える道路を持っていれば理論的には332km/hまで叩き出すことができる史上最速のベントレーが、英国はクルーの工場よりデビューすることになった。
2014年モデルのコンチネンタルGTスピードの最大のアピールポイントは、その動力性能にある。英国製のツイン・ターボ・ユニットを具するW12エンジンには再び手が加えられ、今までにも増して強力なパワーを得たのだ。
V8エンジンだってデビュー当初からずっと賛嘆され続けている。それにもかかわらず今回ベントレーは敢えて12気筒エンジンを採用することにしたのである。
ついこの間、ベントレーはW型12気筒エンジンをフォルクスワーゲンのもとでクルーの本社工場にて増産することを宣言したばかりだ。
GTスピード(ほんの僅かに最高速度は落ちるがドロップ・トップ版も販売する)のボンネットに収まるエンジンの最高出力は加給圧の上昇に伴い、従来の625psから635psへと進化を遂げ、最大トルクも81.6kg-mから83.9kg-mまで拡大された。
強大なパワーはZF製のオートマティック・トランスミッションを介して、60:40の比率で前後四輪に伝えられる。
また0-100km/h加速も4.2秒から4.0秒へと短縮され、ガス・ペダルを床に踏み続ければ9秒で161km/hに達するという。9秒、161km/hという値は実のところ先代とは変わりないのだが、その代わりに最高速度は330km/hを超えることになった。
またコンチネンタル・ファミリーの中でGTスピードが最も動力性能が高いという点も今までと同様だ。
標準のコンチネンタルGTに比べて車高は10mm下げられ、スプリングとリアのスタビライザー、サスペンション・ブッシュは強化された。くわえてキャンバー角も15%増している。
幾分控えめではあるが外観にも手が加えられている。フロント・スプリッターやサイド・スカート、リア・ディフューザーはボディ・カラーに見合う形に改められ、その他にもダークカラーの22インチ・アロイ・ホイールやスモーク・テール/ヘッド・ランプや赤く塗装されたブレーキ・キャリパーが与えれる。またクローム仕様の ’スピード’ エンブレムがフロント・フェンダーに奢られる点も2014年モデルの主だったポイントだ。
内装にもカラー変更が施され、シートに座った者はみな’スピード’と書かれたバッヂを見るたびに、最速のベントレーに乗っているのだと思い出すことになるだろう。
■どんな感じ?
ダウン・サイジングやハイブリッドなどのワードを聞かない日がないこの時代に、気が遠くなるほどパワフルかつ、ガソリンと財布の中身がみるみるうちに空になっていくW型12気筒エンジンを積んだクルマを生産することほど馬鹿げたことはないだろう。
幸いにもと言うべきか£150,000(2,221万円)のクルマを買う人の中に、ガソリン代や実用性についてあれやこれやと考えを巡らす人なんていない。もっとも重要なのはW型12気筒が組み合わされるGTスピードが、このご時世においてさっさと闇に葬ったほうが世のため人のためなのか、あるいは優れた絵画や奥深きワインのように、退廃的なモータリング界にあらたな ’味わい’ を加えるのかである。
何より素晴らしいのは、眼を見張るほどのパワーを持っていながら感嘆すべき従順さと気高き快適性を併せ持っていることにある。オートマティックをDレンジ固定にして走行する限り、エンジン音は静かに柔らかく響き、ロード・ノイズや風切り音の遮断レベルの高さには心から感心させられる。
市街地まで連れだすと電気アシスト付きの速度感応式ステアリングの恩恵を受けて、軽く正確に操舵を行うことが出来る。驚くほど簡単にドライブをしている最中、21インチのホイールは常に落ち着き払い、エアサスペンションは終始英国の傷だらけの路面をいなすことに徹した。
ステアリングを握っていようが後部のレザー・シートでリクライニングしていようが、等しくそう感じることができるのだ。扉を閉じてから目的地に到着するまで、あなた自身を常にリラックスした気分にしてくれることを約束する。
大きな体躯をもったコンチネンタルGTは、全てのサスペンションをエア・サスペンションとする。4本足の硬さは、一番やわらかいソフトから最も硬いスポーツまで、センター・コンソールに位置するインフォテーメント・スクリーンから制御可能だ。最も柔らかいセッティングと硬いセッティングの違いは明確に気づくことができるけれど、だからと言って様々な路面状況に合わせて常々設定変更を行うほどまでもない。
クルージング時にはコンフォート・モードに固定し、時折の楽しみにスポーツ・モードにスイッチするのが一番賢い使い方かもしれない。ただし後者の場合は間違いなく凹凸を伝えやすくなるので注意が必要だ。
もし気分が乗ったなら、スポーツ・モードを意味するSレンジにギア・レバーを入れてGTスピードのパワーを解き放ってやるといい。
ギア・レバーを左に倒せばマニュアル・モードの始まりだ。パドルはコラムに固定されているため、もしかすると指が短いドライバーにとってはハンドルを傾けた状態では操作しづらいかもしれないが、ずんぐりとしたパドル・シフトからもギアを選択できる。
スポーツ・モードに入ったW12エンジンは、歯をむき出しにした獣のような唸り声をあげ、シフト・チェンジに要する時間も短縮される。低速からひとたびアクセル・ペダルを蹴り込めば、W12はほんの一瞬深々と息を吸い込んだのちに、そのパワーを炸裂させる。瞬きする間に、豪華客船クルーズの速度から、過ぎ去っていく景色を脳裏に焼き付けるのに必死になるほどの速度に達するのだ。
コーナーでは巨大なマスを感じさせない鮮やかな走りをする。もちろん車重から考えても、敏捷に駆けまわる純血種のスポーツカーのように、とはいかないが常に安定感がありアクセルをハードに踏み込まない限りアンダーステアと顔を合わすこともなさそうだ。
一貫して速い。そのうえステアリングの重みも適切だ。四輪駆動システムのトラクションはとてつもないグリップとバランスを導き出す。したがってコーナーの入り口から、脱出にかけて自信を持って運転することができるだろう。
テストに借りだした車両にオプション選択されていたカーボン・セラミック・ブレーキは、2320kgの巨体を制御するのに大いに力を発揮するのだが、£10,610(157万円)の価格を見れば目に涙を浮かべずにはいられない。コンチネンタルGTの最上級モデルなのだから、標準で装備されていてもいいのだろうかと思った。
スポーツ・モードのスリルを味わってしばらくすると、どことなく神経がすり減っているようにも感じた。腹の底から揺さぶるエンジンの咆哮を聞き、繊細なスロットル・レスポンスに身を浸せば浸すほど、そしてアグレッシブなギア・ボックスの変速を味わうほど、コンチネンタルGTは、スポーツカーとは対局に位置する高速クルーザーなのだと感じたのだった。
■「買い」か?
現実的なドライブでの話に戻ろう。この最新のコンチネンタルGTスピードは、パフォーマンスが向上したからといって従来の恐ろしく速い高級クルーザーとしてのキャラクターは変化していない。
純粋なドライビングを求めるならば、われわれはV8エンジンを積んだコンチネンタルを好む。ハンドリングは生き生きとしていて、なおかつ排気音も(12気筒には一歩譲るとしても)素晴らしいし、なにより至る所にカリスマ性を感じるからだ。
しかしながらラグジュアリー・カーを欲する者には、’なかでも最高のもの’を買うことに拘る傾向があることも事実である。そうなるとこのW12のコンチネンタルGTは、最上級のベントレーという立場において輝きを放つことになる。
豪奢な高速クルーザーとしても、脈拍を速めるクルマとしても超一流だ。色々と考えた結果、やはり高速グランツーリズモとしての、ベントレーの王者たる名声を得るに相応しい一台だと言えるだろう。
(マット・バート)
ベントレー・コンティネンタルGTスピード
価格 | £156,700(2,720万円) |
最高速度 | 331km/h |
0-100km/h加速 | 4.0秒 |
燃費 | 6.9km/ℓ |
CO2排出量 | 338g/km |
乾燥重量 | 2320kg |
エンジン | W型12気筒5998ccツインターボ |
最高出力 | 635ps/6000rpm |
最大トルク | 83.9kg-m/2000rpm |
ギアボックス | 8速オートマティック |