F1の歴史を守り続ける秘密の「整備工場」 マクラーレン・ヘリテージの驚くべきコレクション

公開 : 2022.06.25 18:05

マクラーレンの本拠地である英ウォーキングに、F1の伝説を語り継ぐ秘密の施設がありました。新旧のレーシングカーがずらりと並ぶ「マクラーレン・ヘリテージ」を紹介します。

何の変哲もない建物に、往年のF1マシンがズラリ

本当にこの場所であっているのだろうか?ロンドン郊外のウォーキングにある何の変哲もない建物と駐車場は、驚くほど控えめなものだ。

玄関をくぐると、インダストリアルな質素な廊下に通じており、両脇にはトイレがある。壁のペンキは少し傷んでいて、カーペットはあちこち擦り切れている。頭上には1980年代を思わせるストリップライトがあり、この廊下の先に何が待っているのか、文字通り何の手がかりもない。そして、最後のドアを開けると……なんということだろう。

マクラーレン・ヘリテージでは、熟練のメカニックがカスタマー・カーの保守・復元に務めている。
マクラーレン・ヘリテージでは、熟練のメカニックがカスタマー・カーの保守・復元に務めている。

F1マシンが3段重ねで積まれており、防汚シートで隠されているが、エアロパーツからもわかるそのシルエットは、明らかにグランプリマシンのものだ。

そのラックの前には、ミカ・ハッキネンの1999年型MP4/14A-04「ウエスト」からルイス・ハミルトンの2007年型MP4/22「チャイナ」(後者はルイスがバリアに激突し、中国GPのチャンピオンを逃したマシンなのでこう呼ばれている)まで、F1マシン4台を解体して並べている。ジョニー・ラザフォードがインディアナポリス500で優勝した1974年型インディカーのタブも置かれており、F1マシンがいかに巨大化したかを物語っている。

プラスチック製の箱には「MP4/4」という伝説的な文字が大きく書かれ、その上にホイールガンなどのツールが無造作に置かれている。F1テクノロジーの頂点を極めようとするメカニックたちが、AUTOCARの取材を気にもとめずに歩き回っている。

マクラーレン・ヘリテージへようこそ。ここは、おそらく世界で最も希少な自動車整備工場だ。

マクラーレンの歴史と伝統を守り続ける

ここに展示されているクルマの多くは、所有者から修理を依頼されたカスタマー・カーだ。しかし、それについては後述する。まず、担当者を紹介しよう。

インディ・ラルは、1981年からマクラーレンで働き始めたベテランのメカニックである。アラン・プロストがタイトルを獲得した1986年シーズンは、彼のメカニックとして活躍した。現在、彼の正式な肩書きは「ヘリテージ&プロモーション・イベント・マネージャー」であり、マクラーレン・ヘリテージを運営する代表者である。スケジュールに合わせてクルマを修理するのは当然ながら、達成すべき目標も課せられている。

マクラーレン・ヘリテージのマネージャー、インディ・ラル氏
マクラーレン・ヘリテージのマネージャー、インディ・ラル氏

ラルの率いるチームは、ブルース・マクラーレンの最初のレーシングカーであるオースチン・セブンから、2013年のMP4/28A-04までさまざまなマシンを維持し、歴史を守り続けることを使命としている。ル・マンを制したマクラーレンF1、CanAmで活躍したM8、そして1980年代にハンス・メッツガーが開発した伝説的なV6タグ・ターボのテストベッド、ポルシェ911ターボ(930型)までもが展示されているのだ。

目玉はもちろんF1マシンだが、デビッド・クルサードやニック・デ・フリースなどを乗せたシートの束や、ラベルを貼ってマシンに入れる準備を整えた燃料バッグの山など、あちこち見て回るといろいろと驚かされるものがある。ハミルトンのカートが2台もあるのだ。

それにしても、マクラーレンがこのように歴史的な「遺産」を残しているのは、歓迎すべきことだろう。というのも、かつては前シーズンのマシンを売却して、次のシーズンの資金を調達していたからだ。レースで活躍するために設計されたクルマは、出番がなくなった時点で、多額の現金と同じ扱いになってしまう。
ラルはこう説明する。

「(ブランドの遺産は)別の形で、以前から存在していました。しかし、遺産を残していくにはエネルギーが必要で、お金もかかります。だから、いろいろな段階で、もうやめようということになったんです」

「でも、やがて多くのクルマが集まってくるようになりました。我々は、走っている姿を見たいのです。シリーズ1、シリーズ2という重要なクルマもありますが、最近は整備して個人のお客様に販売するという、まったく新しい事業としてスタートしました」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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