クラシック・ベントレーの異端児 3リッター・スーパースポーツ 時速100マイル保証 前編

公開 : 2022.07.16 07:05

コーナーへ鋭く侵入できるショートシャシー

運転席へ座る場合は、助手席側のドアからが良い。開口部のカットラインは、傾斜したフロントガラスと呼応するように後方へ傾いている。

ステアリングコラムが寝かされており、サイドサポートの高いシートの間から身体を滑り込ませるのは、筆者の体型の場合は少々きつい。足もとも、広々とはしていない。

ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)
ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)

ペダルレイアウトもタイトで、細身の靴でなければクラッチペダルが踏みにくい。シートは、しっかり身体を固定してくれる。背もたれを倒すと、テールゲートを開かずに荷室へアクセスできる。筆者も初めて知った機能だ。

ウッドで仕立てられたダッシュボードには、スミス社製のメーターが並ぶ。中央の大きなハンドルは、燃圧の調整用。自動化された当時のものより、信頼性は高いようだ。

可憐な見た目のエンジンの内側には、当時のクランクとロッドが残っている。流石に能力を限界まで試すことはなかったが、軽量なフライホイールと相まって、驚くほど熱心にパワーを生み出してくれる。

トップギアでもたくましい。100km/h程度なら、重厚なゴロゴロというノイズを放ちながら、2000rpmで巡航できる。

ステアリングホイールは、筆者が過去に運転した3リッター・スピード以上にレスポンスが良い。コーナーへ、より鋭く侵入できる。

ベントレー・マニアのなかには、スーパースポーツは操縦が難しいと考えている人もいる。特に濡れた路面では。メドカーフ氏は、そんなことはないと説明する。

コーチビルダーによるスポーティなボディ

4速マニュアルは、変速タイミングをうかがう必要がある。2速はゆっくり、3速は速めに。1度慣れてしまえばスムーズにこなせ、ビンテージ・ベントレーのなかでもベストに思える。シフトレバーは、運転席の右側から伸びている。

スーパースポーツは、標準ホイールベースの3リッターより、あらゆる面でシャープ。かのエットーレ・ブガッティ氏も、この珍しいベントレーを運転したことがあるという。

ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)
ベントレー・3リッター・スーパースポーツ(1925〜1927年/英国仕様)

基本的に受注生産という体制で、シャシーの納期は2か月から3か月だった。モーターショーに展示されることなく、自動車メディアによる試乗レポートも実施されなかった。

ラインオフした18台の多くへ、短いシャシーに似合うスポーティなオープンボディが載せられた。そのなかには、自動車メーカーだったアルバニー・キャリッジ・カンパニー社によるものや、コーチビルダーのジャービス&サンズ社が手掛けたものなども含まれた。

一方で、HJ.ミュリナー社によるクローズド・ボディが架装された1台も存在した。洗練性を求め、軽さは多少犠牲になっていたはずだが。

最も美しいボディといえたのは、ロンドン南西部のサービトンに存在したコーチビルダー、スルビコ社が手掛けたものだろう。滑らかに前後へ伸びたフェンダーとボートテールが与えられた、2シーターに仕立てられていた。

海外のコーチビルダーによるボディも、2台が載せている。1台はフランス・パリへ、もう1台はオーストラリア・メルボルンへ運ばれて。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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