クラシック・ベントレーの異端児 3リッター・スーパースポーツ 時速100マイル保証 前編
公開 : 2022.07.16 07:05
コーナーへ鋭く侵入できるショートシャシー
運転席へ座る場合は、助手席側のドアからが良い。開口部のカットラインは、傾斜したフロントガラスと呼応するように後方へ傾いている。
ステアリングコラムが寝かされており、サイドサポートの高いシートの間から身体を滑り込ませるのは、筆者の体型の場合は少々きつい。足もとも、広々とはしていない。
ペダルレイアウトもタイトで、細身の靴でなければクラッチペダルが踏みにくい。シートは、しっかり身体を固定してくれる。背もたれを倒すと、テールゲートを開かずに荷室へアクセスできる。筆者も初めて知った機能だ。
ウッドで仕立てられたダッシュボードには、スミス社製のメーターが並ぶ。中央の大きなハンドルは、燃圧の調整用。自動化された当時のものより、信頼性は高いようだ。
可憐な見た目のエンジンの内側には、当時のクランクとロッドが残っている。流石に能力を限界まで試すことはなかったが、軽量なフライホイールと相まって、驚くほど熱心にパワーを生み出してくれる。
トップギアでもたくましい。100km/h程度なら、重厚なゴロゴロというノイズを放ちながら、2000rpmで巡航できる。
ステアリングホイールは、筆者が過去に運転した3リッター・スピード以上にレスポンスが良い。コーナーへ、より鋭く侵入できる。
ベントレー・マニアのなかには、スーパースポーツは操縦が難しいと考えている人もいる。特に濡れた路面では。メドカーフ氏は、そんなことはないと説明する。
コーチビルダーによるスポーティなボディ
4速マニュアルは、変速タイミングをうかがう必要がある。2速はゆっくり、3速は速めに。1度慣れてしまえばスムーズにこなせ、ビンテージ・ベントレーのなかでもベストに思える。シフトレバーは、運転席の右側から伸びている。
スーパースポーツは、標準ホイールベースの3リッターより、あらゆる面でシャープ。かのエットーレ・ブガッティ氏も、この珍しいベントレーを運転したことがあるという。
基本的に受注生産という体制で、シャシーの納期は2か月から3か月だった。モーターショーに展示されることなく、自動車メディアによる試乗レポートも実施されなかった。
ラインオフした18台の多くへ、短いシャシーに似合うスポーティなオープンボディが載せられた。そのなかには、自動車メーカーだったアルバニー・キャリッジ・カンパニー社によるものや、コーチビルダーのジャービス&サンズ社が手掛けたものなども含まれた。
一方で、HJ.ミュリナー社によるクローズド・ボディが架装された1台も存在した。洗練性を求め、軽さは多少犠牲になっていたはずだが。
最も美しいボディといえたのは、ロンドン南西部のサービトンに存在したコーチビルダー、スルビコ社が手掛けたものだろう。滑らかに前後へ伸びたフェンダーとボートテールが与えられた、2シーターに仕立てられていた。
海外のコーチビルダーによるボディも、2台が載せている。1台はフランス・パリへ、もう1台はオーストラリア・メルボルンへ運ばれて。
この続きは後編にて。