巨大V12エンジンを運んだロールス・ロイス カリナン・ブラッグバッジで辿る 前編

公開 : 2022.07.30 09:45

Rエンジンも収まりそうな広い荷室

トラックの前方には、傾斜した屋根のようなものが付いている。恐らく、雨からエンジンを守るためだったのだろう。運搬中、荷台にはカバーが掛けられたと思われるが、ドライバーは自然と対峙しながら走ったようだ。

貴重なエンジンをダービーまで運んだのは夜間。雨の可能性も高い。事故を起こせば、ドライバーはエンジンの下敷きになるし、スーパーマリンS.6Bも飛行できなくなる。

ロールス・ロイス・カリナン・ブラックバッジ(英国仕様)
ロールス・ロイスカリナン・ブラックバッジ(英国仕様)

舗装も充分ではない一般道を、可能な限り速く運転する必要があった。ヘッドライトは巨大でも、明るさは心もとない。リスクの低くないドライブだった。

記録では、カルショット航空基地から少し北上したハンプシャーで、スピード違反のトラックを警察が捕まえている。128km/hも出ていたという。

現在なら、ロールス・ロイスの巨大な航空機用V型12気筒エンジンを、どうやって運んだだろう。ローレンスが議論の場に加わっていたら、最新のSUV、カリナン・ブラッグバッジを提案したかもしれない。広い荷室も備わっている。

37Lという大排気量エンジンを、分割して開く優雅なテールゲートから、上質に仕立てられた荷室へ積み込むことに対しては意義が挙がるかもしれない。しかし、最上級のラグジュアリーSUVは、実用性にも優れている。

筆者は、ロンドンの科学博物館に展示されているRエンジンのサイズを図ったことがある。1931年のシュナイダー・トロフィーを優勝した、S1595型スーパーマリンS.6Bに搭載されたユニット、そのものだ。

1931年に走ったであろうルートを辿る

筆者の測定では、プロペラシャフト・スタブと呼ばれるシャフトを含めて、全長は2.3m。残念ながら300mmだけ、シャフト部分がカリナンの荷室からはみ出てしまうが、運転席と助手席の間に出せば大丈夫かもしれない。

フロアや側面に保護材を敷き詰めれば、当時より遥かに快適で高速な、エンジン輸送を実現できる。風雨に悩まされることもない。それでは実際に、1931年に走ったであろうルートを豪奢なカリナンで辿ってみよう。荷室は空だけれど。

ロールス・ロイス・カリナン・ブラックバッジ(英国仕様)
ロールス・ロイス・カリナン・ブラックバッジ(英国仕様)

駐車場に止まるカリナン・ブラッグバッジは巨大。フォルクスワーゲン・ゴルフが、ポロのように小さく見えてしまう。パワー・テールゲートを開くと、やはり荷室も巨大。

荷室のフロアには、大きな箱が縛り付けてあった。ボタンを押すと、折りたたまれた2脚のピクニックチェアとテーブルが展開された。これは少々邪魔そうだ。37LのV12エンジンを積む場合は、降ろす必要がある。

エンジンの重量は744kgもあるが、カリナンには強化されたエアサスペンションと、赤く塗られたキャリパーが挟む、大きなディスクブレーキが付いている。しかも四輪駆動だから、不足なく受け止めてくれる、かもしれない。

あいにく、博物館はRエンジンを貸し出してはくれなかった。まあ、仮に許可してくれたとしても、試さなかったはず。しかし91年前の夜に、カルショット航空基地からダービーに向けて疾走したであろう道を辿ることは、現実的だ。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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