サイドウォールが路面に食い込む トヨタGRダカール・ハイラックス T1+マシンへ同乗

公開 : 2022.07.12 08:25

サイドウォールが不規則な地形に食い込む

だとしても、能力の高さは変わらない。エンジンは、チューブラー・フレーム・シャシーの中央、低い位置に押し込められている。

サスペンションは、前後ともにダブルウイッシュボーン式。2022年の本番仕様とは異なり、ダンパーはタイヤ1本につき2本が組まれている。この構造は、夜の限られた時間でのメンテナンスには手間だという理由で、最終的には軽量な1本へ変更された。

トヨタGRダカール・ハイラックス T1+(2022年仕様)
トヨタGRダカール・ハイラックス T1+(2022年仕様)

タイヤは大きい。2022年のT1+クラスの規定として、最大許容直径が32インチから37インチへ拡大されている。

ドライバーのアル・アティヤは、運転中は無口。というべきか、エンジンとストレートカット・ギアの6速シーケンシャルMTが発するノイズが大きく、会話は難しい。クルマから降りた後で、アップグレードが革新的な変化をもたらしたと教えてくれた。

サスペンションのストローク量が長くなったことで、まとまりのある、ニュートラルな操縦特性を得たという。コーナーでの姿勢制御が容易になり、高速化にも繋がったようだ。タイヤの直径が大きくなることで、加熱量は小さくなり、不具合も減らせる。

肉厚なタイヤは、アル・アティヤの激しいコーナリングで威力を発揮していた。ブレーキングを可能な限り遅らせ、その直後にテールがスライドし始める。タイヤのサイドウォールが不規則な地形に食い込み、摩擦でスピードが一気に落ちていく。

アル・アティヤの無駄のない動きに驚く

物理ブレーキを使う時間は、極わずか。ステアリングホイールを回す時間も一瞬。減速し、きっかけを与え、コーナーの頂点を過ぎる前にアクセルペダルを傾け始める。ハイラックス T1+が充分旋回するまで挙動を確かめながら、加速できる瞬間を待つ。

フロントが外側にスライドし始めたら、長いハンドブレーキ・レバーを引き上げ、テールを振り出させるのだろう。予想通りフロントノーズの向きが変われば、若干のオーバーステアを保ったまま、一気にエンジンを吹かし始める。

トヨタGRダカール・ハイラックス T1+とドライバーのナッサー・アル・アティヤ氏
トヨタGRダカール・ハイラックス T1+とドライバーのナッサー・アル・アティヤ氏

助手席の筆者は激しいボディの動きに翻弄されるが、アル・アティヤの無駄のない動きにも驚かされる。明らかに安定しないオフロードで、ピックアップトラックを巧みに制御していく。

外から見ていたら、その獰猛な走りから、ドライバーの冷静な操作を想像できないだろう。車重1t程度のハッチバックのラリーマシンと同じように、道幅いっぱいを使ってドリフトするのだと話していた。

レーシングカーであり、ブルドーザーのようでもあるハイラックス T1+だが、ボディサイズや車重を手懐けられれば可能なようだ。確かに、高速で流れるように疾走する。

今までの概念が通用しないような体験だった。全開に近い走りだったのか、アル・アティヤに聞いてみる。優しく微笑みながら、60%から70%くらいですね、と答えてくれた。

「特に攻めてはいません。いい感じのリズムだったと思いますよ」。トヨタの技術者は、素晴らしい身のこなしを大きなハイラックスへ与えたらしい。

トヨタGRダカール・ハイラックス T1+(2022年仕様)のスペック

英国価格:−
全長:4810mm
全幅:2300mm
全高:1890mm
最高速度:168km/h(FIA規定)
0-100km/h加速:12.0秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:2000kg(FIA規定)
パワートレイン:V型6気筒3444ccツイン・ターボチャージャー(試乗車はV8自然吸気)
使用燃料:ガソリン
最高出力:405ps
最大トルク:67.2kg-m
ギアボックス:6速シーケンシャル・マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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