中嶋一貴 水素と合成燃料を語る トヨタ・ガズー・レーシングにとってル・マンの重要性とは

公開 : 2022.07.02 18:25  更新 : 2022.11.01 08:41

レースドライバーを引退し、TGR-E副会長に就任した37歳の中嶋一貴氏に独占インタビュー。来年のル・マンへの意気込みやEV、水素、合成燃料技術について語ってくれました。

TGR-E副会長としての中嶋一貴

中嶋一貴は、耐久レースの高み、低み、試練、苦難を知っている。ル・マン24時間レースでは、トヨタのハイブリッドカーで3連覇を達成したが、2016年のレースでは、最終ラップにマシントラブルで停止し、あと一歩のところで首位を逃がすなど、苦い経験も味わった。

「ハイパーカー」での耐久レースに挑むガズー・レーシングを率いるのに、ドライバーを引退したばかりの彼以外に誰がふさわしいだろうか。37歳の彼が、トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ(TGR-E)の副会長という肩書きを持つにはまだ若いと思う人もいるかもしれない。

中嶋一貴氏とトヨタ・トムス85C
中嶋一貴氏とトヨタ・トムス85C

しかし、英AUTOCAR編集部がグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで彼に話を聞いたところ、この役割にとてもふさわしい人物であることは明らかだった。

――ご就任、おめでとうございます。移籍のきっかけは何だったのでしょうか?

「自分に提示された役割だと思います。本当に驚きでした。オファーを受ける前は、日本でキャリアを続けることしか考えていませんでしたが、この新しい役割を与えられたおかげで、若い世代のドライバーやレースそのものの未来に焦点を当てることができるようになりました」

「新しいテクノロジーがどんどん出てきて、カーボンニュートラルのレギュレーションも変わってきていますし、モータースポーツを取り巻く環境は一筋縄ではいかないんです。このような状況に挑戦できるというのは、とても刺激的ですね。出てきた新しいテクノロジーをどうモータースポーツに生かすかが課題です。僕にとっては、クルマを運転しなくても、レースはエキサイティングなんです」

水素エンジン技術も解決策の1つに

――テクノロジーが増えていくのは楽しみですか?

「テクノロジーは、レーシングカードライバーとして常に歓迎すべきものです。ル・マンは、新しいテクノロジーを実証し、開発するのに非常に適しています。ディーゼルがリードしていた時代もありましたが、その後ハイブリッドが導入されて世界を席巻し、今ではワールドラリーなど他のカテゴリーにも広がっています」

「僕らは今、電気と水素について議論を始めています。トヨタ・ガズー・レーシングにとって、ル・マンは新しいアイデアを披露し、モータースポーツ活動からより良いクルマを作るのに最適な場なのです」

――主役となりそうなパワートレインはありますか?

トヨタは既存のエンジンをベースとした水素燃焼エンジン技術の開発に取り組んでいる。
トヨタは既存のエンジンをベースとした水素燃焼エンジン技術の開発に取り組んでいる。

「トヨタでは一般的に、お客様にもっともっと多くの選択肢を提供しようと考えています。電気だけでなく、水素もそうですし、内燃機関もまだ推しています。特に、(トヨタの社長である)豊田章男が乗っている日本の水素燃焼レーシングカーを見ると、その開発スピードは目を見張るものがありますね。相当なものですよ」

「このプロジェクトで楽しみなのは、内燃機関を残しつつ、カーボンニュートラルを同時に実現できることです。個人的には、エキサイティングなエンジン音は失いたくないので、これが解決策の1つになればと思います」

――水素技術が主役になることはあるのでしょうか?

「ハイブリッド技術は、はじめの方こそそれほど手頃な価格ではありませんでしたが、お客様からの需要が増えれば、価格は下がります。水素自動車の部品や技術のほとんどは、通常のICE(内燃機関)と同じです。だから、技術的にはうまくやれる方法がある。エネルギー供給が別の問題としてありますが、その点は世界も変わってきているので、実現可能なはずです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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