役目を終えたロンドンタクシーが海賊船に? 「クルマいじり」のベースとして再注目

公開 : 2022.07.05 06:05

ロンドンを象徴する名物タクシー「ブラックキャブ」。古くなり引退したものは、超高級タクシーやピックアップトラック、果ては海賊船に改造されて余生を送っています。

激減するロンドンタクシー

昨年11月、ロンドン市内で運行できるディーゼルエンジン搭載のタクシーの最長使用年数が1年短縮され、13年となった。古い棺桶に新たな釘が打たれたのである。

ロンドン交通局では、ゼロ・エミッション車をはじめとするクリーンな車両の普及を促進するべく、古いディーゼルタクシーを廃車するための補助金と、新型LEVC TXレンジエクステンダー(発電用エンジンを積んだEVのタクシー)などの購入補助金を導入している。

ロンドン市内は古いディーゼル車の通行が制限されるなど、厳しい環境規制が実施されている。
ロンドン市内は古いディーゼル車の通行が制限されるなど、厳しい環境規制が実施されている。

これらの補助金と、2018年に初めて導入された使用年数制限は、現在ロンドンタクシーの約3分の1がゼロ・エミッション対応車であることから、所期の目的を達成しつつあるといえるだろう。

しかし、タクシーの総数は決して多くない。ロンドン交通局が市民の足となるタクシーの種類を変えている一方で、新型コロナウィルスと市の「ストリートスペース計画(パンデミックに対応して設立)」は、静かにタクシーの数を減らしているのである。

政府の最新の調査によると、2020年から2021年にかけて、ロンドン市内のタクシー台数はほぼ30%減の1万3400台となった。実際、2021年11月初めにライセンスを取得したディーゼルタクシーは、わずか9073台であった。

業界誌タクシー・ポイント(Taxi Point)の創刊者兼編集者のペリー・リチャードソンは、「このタクシー台数の激減は、運行会社が年数制限を超えた車両を廃車しているため」と語る。

「パンデミック時にタクシー需要が減少したため、資金をゼロ・エミッション対応の新車に投資できたタクシー会社はほとんどなく、そのため現在のような状態になったのです」

では、LTI FX4(1958~1997年)、LTI TXI(1997~2002年)、LTI TXII(2002~2006年)、LTI/LTC TX4(2007~2017年)といった、古いディーゼルタクシーはどうなったのだろうか?

「第二の人生」を送るブラックキャブたち

リチャードソンが言うように、その多くは廃車(スクラップ)になった。しかし、幸運なことに、10万ポンド(約1600万円)もするような高級タクシーに進化したものから、1940年代風のピックアップトラックやリボンをつけたウェディングカーに生まれ変わったものまで、新たな命を吹き込まれたタクシーもいる。

実際、古いロンドンタクシーは頑丈な機械部品と広い室内空間を備えており、レストアするにしても、ゴージャスに改造するにしても、「クルマいじり」のベースとしては理想的なものだ。

カーン・オートモービルズ社が製作した、ロールス・ロイスのようなLTI/LTC TX4
カーン・オートモービルズ社が製作した、ロールス・ロイスのようなLTI/LTC TX4

カーン・オートモービルズ社は、2017年に生産終了を記念してTX4の超高級仕様を製作した。外見は従来のブラックキャブに見えるが、キルティングレザーシート、アルミペダル、色分けされたシートベルト、本革巻きステアリング、スターライト・ヘッドライナーなど、室内は全くの別物だ。

「運転席のデザインは、本当に楽しい作業でした」と語るのは、同社のアフザル・カーン代表。「クルマにはロマンがあります。中を見たら惚れ惚れしますよ」

でも、10万ポンドもするクルマに乗ったら、騒音や性能、快適性など、決して上質とは言えない部分を無視することはできないだろう。

カーンはその点を考慮して、静音材を追加し、エンジンにも少し手を入れたという。乗り心地はそのままでまったく問題ないと判断し、変更しなかった。カーンはこの超高級TX4を5台製作し、すべて販売している。

実は、カーンがベースに選んだ車両は、中古ではなく新車である。しかし、首都圏での務めを終え、結婚式のタクシーとしてセカンドライフを送るタクシーもいる。

サリー州に本拠を置くウェディング・タクシー社は、結婚式の移動手段として使用されるロンドン風タクシーのオリジナルかつ最大のサプライヤーであると謳っている。同社ではFX4フェアウェイ、TX4、そして1940年代のナフィールド・オックスフォードなど、クラシックなタクシーが揃い、花嫁を教会に、結婚したカップルを披露宴に送り、穏やかな老後を送っているのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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