役目を終えたロンドンタクシーが海賊船に? 「クルマいじり」のベースとして再注目
公開 : 2022.07.05 06:05
頑丈さを武器にトラックへ改造されるものも
そんな彼らが、ポール・ベーコンがデザインしたタクシーに乗ったらどう思うだろう。カーンが豪華なTX4をデザインしていた2017年、レスターに住むエンジニアのベーコンは、唯一無二の改造タクシーの仕上げをしていたのである。
「妻がインフルエンザにかかり、楽しみにしていた1週間のベネチア旅行に行けなくなってしまったんです。7日間も家でどう過ごせばいいんだ、と思いましたよ。本業は自転車で動くスムージーメーカー(ペダルを漕ぐとスムージーができる)を作ることなのですが、どうせなら自分が楽しいことをやろうと思って、タクシーベースのトラックのようなバカげたものを作ることにしたんです」
ベーコンはFX4フェアウェイの骨組みを使い、わずか7日間でこの「タキシダーミスト(Taxidermist)」を作り上げた。この経験を活かし、翌2018年には、1940年代のフォードF-1にインスパイアされたピックアップトラックも制作した。
「伝統的なロンドンタクシーの素晴らしいところは、腐食しにくいシャシーを備えていることです。さらに、フェアウェイは超頑丈な日産の2.7Lディーゼルエンジンと、トヨタ製3速ATを搭載しています。でも、他の部分はジャンキーで、狂ったように錆びていくんですよ」
そこでベーコンは、F-1のレプリカを作るべく、フロントドア、フロントルーフ、フロントガラス、フロントバルクヘッドを除くボディの大部分を廃棄した。
次に彼は、石膏とポリスチレンで新しいフロントエンドのベースを作り、ボディフィラーでなめらかに仕上げた。これをワックスで固めてからグラスファイバーを詰め、F-1のノーズコーンとフロントエンドを形成した。
リアバルクヘッドはスチール製、フロントウィングとランニングボードはグラスファイバー製だ。荷台の側面とテールゲートには複合材を、荷台の床には木材を選んだ。
中古タクシーのカスタムがビジネスに?
ベーコンは完成したトラックを販売し、わずかな利益を得た。その数年後、新型コロナウィルスの流行がはじまり、ペダル式スムージーメーカーの需要がなくなったとき、この経験が役立つことになる。
「タクシーベースのトラックを作れば、なんとかなると思ったんです。最初の1台を作る様子をソーシャルメディアに投稿したら、注文が殺到しました。1台作るのに約6週間かかり、600~1000ポンドのドナー車を含めると、完成品で8500ポンド(約140万円)になります。これまで3台製作し、今は4台目に取り掛かったところです」
それが完成したら、次はケータリングバンを作るプロジェクトが控えている。ちなみに彼自身のタクシーは、レクサスLS400の4.0L V8を搭載したホットロッドにする予定である。これを作ったら、もうタクシーを使った作品には手を出さない。自転車に戻るつもりなのだ。
「タクシーベースのクルマは11台作りましたが、正直、どれも悪夢みたいなものですよ」と彼は言う。
それでも、このおかしなエンジニアと話をしていると、彼に古いフェアウェイと数千ポンドを渡せば、人生で最高の驚きと、他にはないロンドンタクシーが手に入るような気がしてくる。
中古のロンドンタクシーっていくらで買えるの?
英国におけるFX4フェアウェイの中古車価格は600ポンド(約10万円)からだが、海賊船に改造されたものが200ポンド(約3万円)で売られていた。状態の良いものは希少で、あるディーラーは手付かずのものを5000ポンド(約80万円)で売っている。
後期のTXIIも安く、良いもので2000ポンド程度だ。ロンドン交通局の13年という年数制限を少し超え、走行距離が65万km程度のものだと500ポンド前後から買えるが、高いものでは2万5000ポンド(約410万円)にもなる。
10年落ちで走行距離29万kmのものが5000ポンド程度と、このあたりがスイートスポットだろう。首都圏で使えなくなるまでの数年間は、ロンドンタクシーを乗り回せることになる。
なお、改造ではなく、ロンドンでタクシー運転手になることが目的であれば、購入前に整備記録などの書類を確認したほうがよい。十分新しいと思って買った中古タクシーが、ライセンス申請時に交通局の年数制限を越えていたことがわかった、という事例も報告されている。