「EVだけが答えじゃない」 科学者が語るトヨタの未来 気候変動への向き合い方

公開 : 2022.07.12 20:25

選択肢を1つに絞るべきではない

――なぜ、もっと多くの人があなたの意見に耳を傾けないのでしょうか?

「残念なことに、わたし達人間は自分ではどうしようもないことでも、予測できると信じてしまう傾向があります。過去の出来事に色をつけ、未来に同じような景色を投影するのはとても心地よいことですが、実際には未来は不確実です」

「今、確実に言えることは、気候変動は非常に深刻な問題であり、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにしなければならない、ということです。しかし、そこに到達するための最善の方法が変化すれば、わたし達はそれに従わなければなりません。そして、どのような技術がわたし達を二酸化炭素から解放してくれるのか、真実はわからないのです」

すべての人が家庭で充電できるわけではない
すべての人が家庭で充電できるわけではない

「バッテリーのサプライチェーンがどうなるのか、誰も自信を持って言うことはできません。今後30年間の地政学的な変化も予測できない。パンデミック(世界的大流行)の再来はあるのか?答えの出ない問題を解決する唯一の方法は、選択肢を1つに絞らず、オープンにしておくことだとわたしは考えています」

――では、2030年にICE(内燃機関)の販売を終了するという英国の判断は早すぎると思いますか?

「どうでしょうか。もちろん、トヨタは法律を遵守します。ですが、この判断は二酸化炭素を減らすための最良の方法なのでしょうか?15年後、20年後には、確かに意味を為すかもしれない。でも、8年後?わかりませんね」

「今起きている間違いは、EVが万能薬だと考える人がいることです。確かに、CO2削減のために本当に良いことも行われていますし、削減目標は成果を測定するための素晴らしいものだと思います。しかし、短期的には、CO2削減を達成するための方法を規定することで動揺をもたらすのではないかと、とても心配しています」

「充電インフラが整っていないから買わない、あるいは初期費用が高すぎるから買わないというクルマを大量に作ってしまうかもしれません。無理に買わせることはできないのです。そのようなことが実際に起こるかどうかはわかりませんし、事実として述べているわけではありません。しかし、市場や科学、研究に答えを求めないのであれば、正しい答えを得られなくなります」

地域によって最適解は異なる

――EVが正しい答えとなる地域は?

「欧州の一部では、おそらく正しい答えとなるでしょう。ノルウェーでは、グリーンエネルギーが非常に多いので、EVはクリーンに走ることができます。また、充電インフラにも多大な投資をしているので、その点も問題ありません。EVが機能するというのは素晴らしいことです」

「しかし、東欧に目を向けると、状況はあまりよくありません。東欧のエネルギーは石炭に大きく依存しており、充電インフラも大幅に遅れています」

風力や地熱などグリーンエネルギーが豊富な地域にはEVは適している
風力や地熱などグリーンエネルギーが豊富な地域にはEVは適している

「変化を求めることはできても、ノルウェーの真似をしろというのは無理な話です。みんなが同じ天然資源を持っているわけではありません。つまり、二酸化炭素削減の目標を達成するためには、BEVに切り替える時期を決めるだけでなく、もっと良い方法があるかもしれないということです」

――EVへ切り替える日を宣言したことで普及が進んでいます。それはプラスに考えることはできないでしょうか?

「変化を強制する方法はたくさんあります。問題は、それが良い変化であるかどうかです」

「電気自動車を検討する際、大多数の人が航続距離の不安に直面します。これに対する自動車メーカーの提案は、より大きなバッテリーを搭載したクルマです。その結果、ほとんど使われない容量の大きなバッテリーが生まれ、クルマは重くなります」

「これは、個人的な経験からも言えることです。妻とわたしは、テスラモデルXを買いました。このクルマのチーフエンジニアと仲がいいからです。素晴らしいクルマですよ。しかし、妻は1日50kmの通勤に使っており、バッテリーの90%はほとんど使われていないことになります。わたし達は、これだけ重量と原材料を引きずっていただけなのです」

「バッテリーの供給が制限されているのは周知の事実です。トヨタRAV4 PHVのようなPHEVであれば、そのバッテリーセルをもっと有効活用することができたのではないでしょうか。そうすれば、ほぼすべての移動において、より多くの総排出量削減に貢献できたはずです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジム・ホルダー

    Jim Holder

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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