「EVだけが答えじゃない」 科学者が語るトヨタの未来 気候変動への向き合い方

公開 : 2022.07.12 20:25

水素の使い道

――水素の位置づけは?

「燃料電池は、未来のクルマの動力源として非常に魅力的です。バッテリーのように大規模な採掘を必要とせず、BEVよりも真のゼロ・エミッション車に近づけることができます。しかし、長い道のりになりそうです」

「自動車業界は、カーボンニュートラルな水素製造に移行する必要があります。また、肥料、原料、石油化学、セメント、鉄鋼など、水素を使って脱炭素化する必要がある業界は他にもあります」

トヨタは選択肢を1つに絞らず、水素、電気、ハイブリッドなど複数のパワートレインを展開する
トヨタは選択肢を1つに絞らず、水素、電気、ハイブリッドなど複数のパワートレインを展開する

「流通の問題もあります。ネットワークがまだ整備されていないこともあり、路線バスや大型輸送車両など、移動ルートが固定されているものに力を入れたほうがいいかもしれません」

「だからといって、水素で走る乗用車が悪いというわけではありません。むしろ、コストを下げるための生産規模の確保に必要なのです。また、ミライの第1世代と第2世代を開発した結果、多くのことを学びました。水素はどのような車両に適用しても有効です」

「現在、スイートスポットがどこなのかが分かってきたところです。そして、中期的には、ヘビーデューティーな用途で最も大きなインパクトを与えると考えています。たとえ正解にたどり着けなかったとしても、学ぶことは大切だと思います」

――世界の大部分の地域ではすでに道が決まっていて、あなたの言葉でもあまり変えられそうにないように感じます。あなたはどう感じますか?

「わたし達が望むのは、地球がクリーンで、グリーンであること、そして気候変動が問題でなくなることです。そこに到達することがいかに難しいか、わたし達はよくわかっています」

「その複雑な道のりの中で、正しい行動を予測することは困難、いえ、ほとんど不可能です。だからこそわたしは、選択肢を広げ、1つの道だけではなくあらゆる道を模索することを強く主張しているのです」

「『確証バイアス』は、人類が洞窟で暮らしていた頃から存在しました。ある視点に対して熱狂的な支持を得ることで、人々はお互いを信じ合うというものです。しかし、バイアスは信じられないほど悪化しており、何とか対処しなければなりません」

「わたしが話すことのほんの一部だけでも、あらゆる立場の人々が『なるほど、これは理にかなっている』と納得するのに役立ってほしいと願っています。わたし達は誇大広告を抑制する必要があるのです」

「トヨタは、2030年までに生産台数の3分の1をBEVにするという、非常に野心的な目標を掲げています。しかし、他のドライブトレインもしばらくは必要だと考えています。CO2の実質排出量を減らすための最善の答えは、どんな状況でも、それぞれのお客様が最もCO2削減に貢献できる方法を提供することなのです。つまり、多様な状況には多様なソリューションが必要だと考えているのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジム・ホルダー

    Jim Holder

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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