イタリア仕立てのシトロエンDS ボサートGT 19 フルア・デザインの希少クーペ 前編

公開 : 2022.07.31 07:05  更新 : 2022.08.08 07:05

柔らかい回転で目を覚ます直列4気筒

1番左側のペダルは、クラッチではなくサイドブレーキ。ダッシュボード左側のレバーで解除できる。油圧システムに不具合が起きた場合は、非常用ブレーキとしても使える。トランスミッションは、オートマティックが組まれている。

DSならでは、という操作はまだ続く。エンジンの始動は、キーを捻ったりボタンを押すのではなく、ステアリングコラム上部から伸びるシフトレバーを僅かに左へ傾けて行う。

シトロエンDS ボサートGT 19(1960〜1964年/欧州仕様)
シトロエンDS ボサートGT 19(1960〜1964年/欧州仕様)

直列4気筒ユニットは、柔らかい回転で目を覚ます。ボロボロと、サウンドにスポーティさはない。ただし、本来搭載されていたチューニング済みのエンジンは、もう存在しない。現在は約85psを発揮する、一般的なDS用のユニットが積んである。

ハイドロシステムのポンプが息を吹き返し、GT 19のボディを走れる状態まで持ち上げてくれる。特徴的な、かすかな高音を鳴らしながら。足もとの専用レバーを操作すると、サスペンションで好みの車高を選択できる。

履いているタイヤが185と太く、車高を高めにしないとフェンダーへ当たるという。オーナーのパンドは、当初の幅の細いサイズへ戻そうと考えている。

ドライビングポジションは起き気味で、視線も若干高め。シフトレバーをゆっくり右へスライドすると、メカノイズを響かせてギアが繋がる。

ブレーキペダルと同様に、アクセルペダルの踏み心地も、スムーズな運転に丁度いい重さ。穏やかに右足を傾けている限り、ATがしっとりと次のギアを選んでいく。

他に例のない快適な乗り心地

アクセルペダルへ力を込めると、急にシフトアップがギクシャクし始める。あまり急がない方が良い。スポーティなクーペらしくパワーを与えたい場合は、DSの廉価版、IDに搭載されていたMTが必要のようだ。

発進すると、優しいサスペンションへ気持ちが向かう。シトロエン自慢のハイドロニューマチックが、ワダチやくぼみ、舗装の継ぎ接ぎなどを見事にいなしていく。他に例のない振る舞いで。

シトロエンDS ボサートGT 19(1960〜1964年/欧州仕様)
シトロエンDS ボサートGT 19(1960〜1964年/欧州仕様)

2022年の現代モデルへ乗り慣れている筆者でも、感心するほど乗り心地は快適。1962年当時、多くのクルマはリジッドアクスルを採用し、不整を越えるたびに前後左右にも揺れたものだ。

直進安定性はサルーンほどではない。ステアリングホイールの反応はよりシャープで、ドライバーは意識的に握っている必要がある。そのかわり、コーナーでの操舵感はより楽しい。アンダーステア傾向もほぼ解消している。

ボディロールはDSらしく小さくないものの、短いクーペは想像以上に機敏に身をこなす。前後の重量配分は65:35程度で、フロントノーズが重い割に反応が良い。

今回、ボサートGT 19を試乗したのは、緩やかな起伏が続くフランス北部のモン・カッセル。1960年代のラリー・ステージのように連続するカーブへハイペースで侵入すると、敏捷性を高めたシャシーを活用できる。

とはいえ、やはりシトロエンはグランドツアラー。おっとりとしたATが、GT 19の動的な個性を支配している。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    セルジュ・コーディ

    Serge Cordey

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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