カリフォルニアン・ポルシェ 356と911(930型/964型) スピードスター3台を乗り比べ 前編

公開 : 2022.08.06 07:05  更新 : 2022.08.08 07:05

シュツットガルトの名門が生み出した、太陽に1番近いスピードスター。356と911、964の3モデルを英国編集部が振り返ります。

世界で最もエキサイティングなクルマ

レス・イズ・モア。より少ない方がより美しい。

往年のドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエ氏が唱えた思想だ。それと反するように、自動車は装備を充実させ、より贅沢で快適な乗り物へ進化してきた。

ブラックのポルシェ356 A スピードスターとシルバーのポルシェ911 カレラ3.2 スピードスター(930型)、ホワイトのポルシェ911 スピードスター(964型)
ブラックのポルシェ356 A スピードスターとシルバーのポルシェ911 カレラ3.2 スピードスター(930型)、ホワイトのポルシェ911 スピードスター(964型)

ところが、全員がその流れに納得していたわけではなかった。1950年代、ある1人がこの思想を真剣に捉え、誕生間もなかったポルシェへ大きな影響を与えた。ブランドを定義することにも繋がった。

1904年にオーストリアで生まれたマックス・ホフマン氏は、ニューヨーク・パークアベニューでアメリカ最大級の輸入車ディーラーを営んでいた。ジャガーフォルクスワーゲンメルセデス・ベンツなどを、多くの人へ提供していた。

1950年、彼はフランス・パリのモーターショーでフェルディナント・ポルシェ氏と対面。本格的に生産が始まったポルシェ356を、アメリカで販売する契約を結んだ。

フェルディナントは、年間5台も売れれば充分だと話したが、ホフマンは1週間に5台売れなければ興味は持たないと返したという。実際、「世界で最もエキサイティングなクルマの1台」として売り出された356は反響を呼び、徐々に輸入台数は増えていった。

ポルシェとして最初の量産車が発売されたのは、まだ試作の延長上といえたものの、1948年。シンプルで機能的な2シーターのボディは、社内デザイナーのエルヴィン・コメンダ氏が描き出したものだった。

シンプルで3000ドル以下のポルシェ

空冷の1.1L水平対向4気筒エンジンは、基本設計がフォルクスワーゲンと共通。シリンダーヘッドとカム、クランクシャフト、吸排気マニホールドなどが独自設計で、ツインキャブレターを載せ、ビートルと呼ばれたタイプ1から40%増しの最高出力を得ていた。

フロントがトレーリングアーム式、リアがスイングアクスル式のサスペンションも、フォルクスワーゲン譲り。だが、リアアクスル後方にエンジンを搭載するスチール製プラットフォームは、356専用の設計だった。

ポルシェ356 A スピードスター(1955〜1958年/北米仕様)
ポルシェ356 A スピードスター(1955〜1958年/北米仕様)

ホフマンからポルシェを購入した1人が、カリフォルニア州でコンペティション・モーターズ社を営んでいた、ジョン・フォン・ノイマン氏。西海岸で開かれたレースへ356で参戦すると、大きな反響を呼んだという。

この反応を受け、ホフマンは356のライトウエイト仕様を作るよう、ポルシェに働きかけた。それに応じて用意されたのが、356 アメリカ・ロードスター。ハンドメイドのアルミニウム製ボディを載せていたが、サンデーレースには高価過ぎた。

356 カブリオレが当時4500ドルだったのに対し、価格は2割増し。積極的とはいえないポルシェの対応もあって、16台しか売れなかった。

ホフマンが求めていたのは、シンプルで3000ドル以下のポルシェ。装備は必要最低限に抑えた356こそ、クルマ好きの要望に応えるものだと考えていた。その強い主張から生み出されたのが、356 スピードスター。今回ご紹介する1台だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

カリフォルニアン・ポルシェ 356と911(930型/964型) スピードスター3台を乗り比べの前後関係

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