M誕生50周年 BMW M5 CSでニュルブルクリンクへ 創設者と開発本部を尋ねて 後編

公開 : 2022.08.13 09:47

BMWの高性能部門、M社が誕生50周年。英国編集部がM5 CSを味わいつつ、その起源を訪ねるべくドイツへ向かいました。

ハードコアさを高めつつ、しなやかなM5 CS

翌日を迎え、ニュルブルクリンクからBMW M社の開発センターが位置するミュンヘン郊外のガルヒングへも、BMW M5 CSで移動する。約515kmのドライブとなる。

ノーマルのM5も、優れたグランドツアラーだ。フェラーリ812 スーパーファストやアストン マーティンDBS スーパーレッジェーラにも勝るほど。大きいボディで、悪びれた見た目のサルーンは、長距離走行にうってつけ。

BMW M5 CS(英国仕様)
BMW M5 CS(英国仕様)

加速性、操縦性、快適性だけでなく、パワートレインやインテリアの仕立ても、すべてが素晴らしい。ゴールドに塗られたホイールや、ボンネットに開けられたエアアウトレットなど、CSの見た目はよりハードコアだ。

だが、ラップタイムをわずかに削る、サーキットでの動的能力が追求されているわけではない。635psの最高出力も、公道のために与えられている。

詳しい内容は以前の試乗レポートをお読みいただきたいが、M5 コンペティションからCSへ仕立てるに当たり、車重は70kgも軽くなった。カーボンファイバーの積極登用のほか、遮音材も削られている。

アンチロールバーも専用品。コイルスプリングが短く、車高は7mm落とされた。この内容で、通常のM5以上にコーナーを機敏に駆け抜けられないわけがない。

アルファ・ロメオジュリアGTAにも通じる、路面と呼吸を合わせるようなしなやかさがある。どこか、ドイツ車的ではない。だが、姿勢制御とステアリングの精度には、揺るがない芯の確かさがある。

BMW M社の未来を予感させる仕上がり

フロントに載るのは、熟成された4.4L V型8気筒。アウトバーンなら290km/h以上も許容範囲で、安定性は凄まじい。郊外の一般道でリアドライブ・モードに入れれば、落ち着き払って流暢に路面を縫っていく。

ポルシェパナメーラとも味わいが違う。どんなライバルを持ってきても、M5 CSの完成度が劣ることはないだろう。疑いようのない傑作だ。多面的な能力を知るほど、世界最高のクルマとまとめて良いように思える。ありきたりな表現でも。

BMW M5 CS(英国仕様)
BMW M5 CS(英国仕様)

CSの意義は大きい。勢いを増す動力性能争いに加えて、車重は増える一方。安全性と快適性を高めるため、クルマには多くの技術が搭載され、サイズは拡大していく。今後は駆動用バッテリーという重りも必要になる。

最新のM3は、20年前のE39型M5より車重がかさむ。ヴァン・ミールは「逆行するという選択肢はありません」。と認めている。

ターボに四輪駆動、オートマティック。必要に応じて、様々なデバイスをMモデルは獲得してきた。そして、多くの人が惹かれるクルマに仕上げてきた。だとしても、軽い方がベターだ。

1800kgあるM4を運転すると、質量を実感する。まだM2は公道で試していないが、M240iが軽いとは感じなかった。今後のハイブリッド化が、さらに重さを呼ぶだろう。

ところが、M5 CSを知ると、重さという課題も克服できなくはないと感じる。1950kgを包み隠す、乗り心地や操縦性のまとまりは、将来のMモデルの新基準として機能するはず。今後のBEVでも。

BMW M5 CSは、驚きが詰まったスーパーサルーンだ。BMW M社の未来を予感させるといっていい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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