M誕生50周年 BMW M5 CSでニュルブルクリンクへ 創設者と開発本部を尋ねて 後編

公開 : 2022.08.13 09:47

E60型のM5 CSLも検討していたM社

今回のロードトリップは、ミュンヘン北部にある、ガルヒングが最終目的地。1986年にBMWモータースポーツ社が、グループAマシン開発の拡充を目的に、より広い場所を求めて移ってきた場所だ。

そこで待ってくれていたハンス・ラーン氏は、BMW M社でプロトタイプ開発を取り仕切る人物。M3のGT4とGT3マシンだけでなく、多くの公道用Mモデルも監修している。

ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センター
ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センター

これまで、多くのMモデルがこの場所から生み出されてきた。マイナーチェンジ版も。近年の開発では3Dプリンターで試作部品を成形し、通常のモデルに試着することもあるという。

ただし、量産車の生産はしていない。この場所では賄うことができない。M3やM8、X5 Mも、通常の製造ラインに混ざって作られている。過去を振り返ると、E34型M5だけが例外。1987年から1996年に作られたすべてのM5が、ガルヒングから旅立った。

この場所にあるのは、M4 CSLやM3 CS、2025年に発売予定のV8ツインターボ・ハイブリッドのM5まで、開発段階のプロトタイプ。多くの極秘プロジェクトも進められてきた。E46型M3 CSLは、2005年の発表時点で、まだ開発が終わっていなかったそうだ。

E60型のM5 CSLも検討された。レブリミットが8250rpmから9000rpmに設定し直され、E92型M3と同じ、ゲトラグ社製のデュアルクラッチATを採用予定だったらしい。DOHCのV型10気筒が奏でる、F1マシンのようなサウンドを想像してしまう。

50年前に引けを取らないエネルギー

クリス・バングル氏が描き出したM6では、アクティブエアロと軽量化対策が練られていた。彼らの実験は、今も終わることはない。われわれの知らないところで、膨大な開発時間が費やされている。

M1の後継モデルも同様だが、素晴らしいプロジェクトでも、ワークショップから公道へ降り立つことができないモノは多い。それでも、うなるほどカッコいいモデルのために、BMW M社の熱意が静まることはない。

ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センターの様子
ドイツ・ミュンヘン郊外のガルヒングに位置する、BMW M社の開発センターの様子

M4 GT3マシンの製作スタジオの壁面には、イエーガーマイスター社がスポンサーだった、プロカーのM1がサーキットを攻める写真が貼られていた。モチベーションを保つため、ロックミュージックがBGMに流れていた。

フロアはきれいで、宝石のように輝くサスペンションを、スタッフが丁寧に組んでいく。前日の、ニュルブルクリンクの雑踏とした雰囲気とは大違い。この場所も魅力的。居心地が良い。

BMW M社を生み出したヨッヘン・ニアパッシュ氏と、50年前に勝利を飾ったニュルブルクリンクでお会いでき、素晴らしいロードトリップになった。さらに、拠点は変わっても、当時に引けを取らないエネルギーが開発本部には満ちていたと思う。

スリムとはいいにくいクロスオーバーが増え、キドニーグリルは大型化し、排気音の規制は強化されていく。本来のMらしさを保つことは、簡単ではない時代といえる。

だが、論理的な思考を乗り越えて、Mというブランドは今後も生き続けるはず。2027年にも、同じように55周年を祝えることを祈りたい。まず今年は、50歳をお祝いしよう。

BMW M5 CS(英国仕様)のスペック

英国価格:14万780ポンド(2351万円)
全長:4956mm
全幅:1903mm
全高:1473mm
最高速度:305km/h
0-100km/h加速:3.0秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:256g/km
車両重量:1825kg
パワートレイン:V型8気筒4395ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:635ps/6000rpm
最大トルク:76.3kg-m/1800rpm
ギアボックス:8速オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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