ルノースポールの歴史 スピダーからトロフィーRまで 写真とともに振り返る

公開 : 2022.07.24 06:05

幻に終わった「究極のクリオ」

メガーヌRSは3ドア、クリオRSは5ドアに限定されていた時期もあった。4代目となるクリオRS 200はターボエンジンを初めて採用し、トランスミッションもATのみとなった。これは、小型ホットハッチの典型であったクリオを希薄化させるものであると多くの人が考えた。1.6L直列4気筒は確かに楽しめるが、販売はフォードフィエスタSTの下に転落してしまう。2016年にマイナーチェンジしたクリオRS 220トロフィーでは、ターボの大型化と排気システムの再設計によりパワーを向上させ、トランスミッションを改良して変速を50%高速化するなど、この問題への対処を図った。

2015年まで、ルノースポールのモデルはすべて欧州で生産されていた。その状況を変えたのは、ブラジルでルノーブランドとして販売されているダチア・サンデロの高性能モデル、サンデロRSだ。最高出力150psの2.0Lエンジンに6速MTを組み合わせ、サスペンションをアップグレードし、ラテンアメリカではまだ珍しいディスクブレーキを完全装備したもの。車重1161kgで、0-100km/h加速は8.0秒。欧州向けのダチア・サンデロから大きく進化しているが、これは南米専用車である。

クリオRS16はコンセプトに終わったが、数台のプロトタイプが製作されている。メガーヌRS 275からエンジンを借用し、強力な「ポケットロケット」となった。
クリオRS16はコンセプトに終わったが、数台のプロトタイプが製作されている。メガーヌRS 275からエンジンを借用し、強力な「ポケットロケット」となった。

あり得たかもしれない「ミラクル」を垣間見ることができたのは、ルノースポール40周年を記念して2016年に公開されたクリオRS16コンセプトだ。メガーヌRS 275からエンジン拝借し、MTを復活させ、専用サスペンション・セットアップを施した、究極のクリオとも言えるものである。運転する者にとっては、実にエキサイティングなハッチバックだった。当時のルノーは、発売すれば4万ポンド(約660万円)以上の価格になるとし、少数の開発車両を製作するにとどまった。残念ではあるが、代わりにアルピーヌA110が復活したことを思えば、それほど心を痛める必要はないだろう。

最も高価で希少な市販ホットハッチ

2018年7月に英国で発売されたメガーヌRS 280は、4代目メガーヌをベースに、アルピーヌA110と同じ1.8Lのターボ付き4気筒を搭載。先代の2.0Lユニットよりも小型ながら、軽量化され、メガーヌ275をも上回るパワーを発揮するようにチューニングされている。

シャシーは従来通りスポールとカップから選択でき、トランスミッションはEDCと6速ATが用意された。また、初めて後輪操舵も採用されたが、一部の評論家からはハンドリングに予測不可能な乱れが発生するとの指摘もある。トロフィーは300psにパワーアップして登場したが、ルノーはこれの究極のバージョンであらゆる手を尽くした。

カーボンファイバー製ホイールなどを備えた「カーボン・セラミックパック」は、ホットハッチとしては非常に高価だが、日本に4台しか入っていない超希少車である。
カーボンファイバー製ホイールなどを備えた「カーボン・セラミックパック」は、ホットハッチとしては非常に高価だが、日本に4台しか入っていない超希少車である。

2019年に登場したメガーヌRSトロフィーRは、後輪操舵とリアシートを外して約130kgの軽量化を図るとともに、オーリンズ製の調整式ダンパーとアクラポヴィッチ製のマフラーを装備。基本仕様でも700万円近い価格となるが、カーボン・セラミックパック(カーボンセラミックブレーキや19インチのカーボンホイール装備)は900万円を超える。両モデル合わせて500台限定で、日本に割り当てられたのは前者が47台、後者は4台だけである。

お値段はさておき、トロフィーRはニュルブルクリンクでの前輪駆動車の新記録を樹立。7分40秒1というタイムは、今も健在である(本稿執筆時点)。

ハイパフォーマンスブランドの未来

これからの未来はどうなるだろう?

最近登場した最新型クリオは、メカニカルな洗練性とドライバビリティが大幅に向上しており、RSのトリートメントを受けるのに最適なモデルであると思われる。ライバルブランドがクロスオーバー車の高性能モデルを展開し始めているので、ルノーもキャプチャーとカジャーに手を加える可能性もあるが、遅かれ早かれEVへの切り替えが行われるかもしれない。実際、フォーミュラEから得た技術を応用してプロトタイプの「ゾエeスポーツ」を製作するなど、EVのRSモデルがいずれ現実のものとなる可能性を見せている。

ルノースポール、そしてアルピーヌの今後の展開に期待したい。
ルノースポール、そしてアルピーヌの今後の展開に期待したい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    トム・モーガン・フリーランダー

    Tom Morgan-Freelander

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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