山岳救助隊に欠かせない4WD車 過酷な現場で選ばれるクルマとは

公開 : 2022.07.26 06:25

扱いやすいDマックス 実際の救助活動に同行

停車してから30秒もしないうちに、必要なところに必要なキットが展開されるのだ。筆者のような初心者にも、このクルマがいかに扱いやすく有効的であるかは明らかだ。今回は比較的明るい日だったが(とはいえほとんど曇り、ウェールズらしい)、夜、風雨の中では、その使い勝手の良さが文字通り生死を分かつことになる。

これらを使って、実際にどんな活動が行われているか。今日は、2つの救助現場に同行させてもらった。1つ目は、崖下に落ちたと思われる犬の救助。ちなみに、山岳救助の世界では、携帯電話のGPSを利用してピンポイントで死傷者を特定できる技術が発達したとはいえ、広大な距離をカバーできる救助犬は、依然として主要な役割を果たしている。

いすゞ・Dマックスのリアポッドには、山岳救助に必要な装備がすべて規則正しく収められている。
いすゞ・Dマックスのリアポッドには、山岳救助に必要な装備がすべて規則正しく収められている。    AUTOCAR

リーフィングを受けた後、チームを乗せたDマックスは崖に向かって出発する。過剰なオフロード性能を必要としなかった理由はよくわかった。鋭利な石を除けば、トヨタRAV4でも十分対応できるだろう。最後の数mは、隊員の1人がクルマを誘導し、崖の上の作業スペースを十分に確保する。さぁ、犬を助ける時間だ。

7人がかりの救助活動だが、混乱はない。各自が自分の役割を理解し、それに専念している。多少のおしゃべりはあっても、目の前の仕事を邪魔するようなことはなく、驚くほど規律正しく進んでいく。クルマにロープをかけ、車輪の前にタイヤストッパーを置き(いい練習になるが、クルマを崖の下に引きずり込むには、相当な猟犬でないと無理だろう)、救助隊員がハーネスをつけ始める。

Dマックスは静止したまま、ポッドを開けて待っている。必要なキットだけを引っ張り出すので、救助現場は驚くほど整然としている。クルマが背景に溶け込み、人間たちが動き回る。少し雨が降ってきているが、作業スピードに差がないことから、彼らは雨に慣れているのだろう。

ロープ、ハーネス、結び目など、驚くほど多くのダブルチェックが行われているが、どれも無駄には感じない。すべては効率的に運用され、5分後には、濡れた犬とその飼い主が崖の上まで滑車で運ばれているのだ。

無駄がない救助活動 クルマは素晴らしい脇役だった

そして、筆者の番だ。幸いにもウェールズの天気雨は弱まり、青空がぼんやりと見える中、「足を折って落下したバカ」としての演技が始まる。筆者の「救助」には7人の隊員がついて、まるで本番さながらに作業をこなしていく(これだけ近代的な技術が発達しているのに、人助けがいかに労力のいることか)。モルヒネとガスと空気が提供され、筆者の足はバキュームスプリントで固定され、ストレッチャーに吊り上げられる。

ストレッチャーに括り付けられ、ウェールズの男女グループに振り回されるのは奇妙な気分だ。ラグビーでどこを応援しているかは、言わないほうがよさそうだ。筆者はリアノン・チャルマース・ブラウン隊員を先頭に斜面を下り、あとは滑車で上まで上がっていく。Dマックスは下でじっと待っている。

山岳救助隊によって「救助」される筆者
山岳救助隊によって「救助」される筆者    AUTOCAR

何かドラマチックなことが起これば、もっといい話になるのだが、残念ながら報告することは何もない。カメラマンのリュック・レイシーが別の角度から撮影している間、急斜面から吊り下げられていることさえ、簡単に感じられた。

平地に戻り、キットを片付ける。ストレッチャーを簡単に収納し、5分後には出発できる。機械、人、車両など、あらゆる要素がドリルダウンされた特異性が、最も印象的だった。無駄がない。

ちょっと不思議なのは、クルマが主役ではないということ。しかし、それこそが最高の賛辞なのだ。Dマックスは設計通りの性能を発揮し、レーザーのように真っ直ぐな目的を持って、セントラル・ビーコンズ山岳救助隊にベストを尽くさせているのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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