山岳救助隊に欠かせない4WD車 過酷な現場で選ばれるクルマとは

公開 : 2022.07.26 06:25

走りはどんな感じ? 山岳救助隊のDマックスに試乗してみた

山岳救助用のいすゞDマックスはいささか運転しにくそうに見えるが、心配はご無用。拠点から国立公園に向けて出発したとき、背中に「G」を感じることができた。ポルシェ911のようなフラット6サウンドはないが(まあ、ほとんどのクルマはそうだけど)、スポーツカーに近いものがある。チームは緊急の出動要請があることを周囲に示したいのだろう、コーナーを曲がるときにはかなりのヨーイングがある。

しかし、ブレコン・ビーコンズの岩場やなだらかな丘陵地帯では、まさにうってつけのマシンだ。ここではスピードは必要ないし、たとえ必要であっても、Dマックスは一歩一歩着実に前進していく。快適で静かで暖かい、山岳救助に欠かせない3つの要素を備えている。

いすゞDマックスは、セントラル・ビーコンズで求められる要件にぴったりのクルマだった。
いすゞDマックスは、セントラル・ビーコンズで求められる要件にぴったりのクルマだった。

しかも、シンプルだ。ジョン・ゴダード氏は、過酷な状況下でも操作しやすいようにと、あえてAT車を選んだ。外気温がマイナス10度でも、急勾配でも、クラッチと回転数のバランスに悩まされることはないのだ。

ダイヤルで2輪駆動、4ハイ、4ローを選択し、シフトレバーでドライブモードとマニュアルモードを切り替え、大きなボタンでヒルディセント・コントロールを操作する。必要最低限の機能しかない。

BFグッドリッチのオールテレインタイヤに助けられ、急勾配の砂利道も見事にこなす。1.9Lディーゼルエンジンから十分なパワーも得られる。

もっと立派な電子機器や装備を誇るピックアップトラックもあるが、Dマックスの適性には異論がない。

灰の中からの再起

2017年11月25日は、セントラル・ビーコンズにとって良い日ではなかった。通行人が彼らの拠点から煙が出ているのを発見し、消防隊が炎を消した時には、3台のレスキュー車両はすべてボロボロになっていたのである。

「構造的に問題なかったものの、煙による被害が大きすぎたため、保険では3台とも直すことができませんでした」とジョン・ゴダード氏。

ブレコン・ビーコンズ国立公園は、英ウェールズ南部にある広さ1340平方kmの国立公園。山なりの比較的厳しい環境だが、ウォーキングやサイクリング、カヌー、乗馬などを楽しむ場として親しまれている。
ブレコン・ビーコンズ国立公園は、英ウェールズ南部にある広さ1340平方kmの国立公園。山なりの比較的厳しい環境だが、ウォーキングやサイクリング、カヌー、乗馬などを楽しむ場として親しまれている。

驚くべきは、セントラル・ビーコンズの日々の救助活動にほとんど影響を与えなかったことだ。活動拠点は地元の消防署に移され、他の山岳救助隊も車両を貸してくれた。「誰も立ち止まることはなかった」と、ゴダード氏は皆が示した適応能力を誇らしげに語る。

4年後、彼らは同じ建物に戻ることができた。技術も向上し、道具の保管やトレーニングのための部屋も改善された。外観は何の変哲もないが、機能は必要十分である。用具の充電器のプラグは自動で外れるようになっていて、誰かが急いでクルマを発進させても、後ろの壁を全部持っていかれることはない。さらに、スプリンクラーも付いている。

選択肢いろいろ レスキュー車両

山岳救助には、さまざまな車両が用いられる。代表的な4台を紹介しよう。

ファットトラック

決して安い買い物ではないので、電力会社が主な買い手となっている。低圧タイヤは環境への影響を最小限に抑え、水に浮くこともできる。ディフェンダーにはない能力だ。

メルセデス・ベンツ・ウニモグ

メルセデス・ベンツ・ウニモグは、英国の鉱山救助隊などで使用されている。
メルセデス・ベンツ・ウニモグは、英国の鉱山救助隊などで使用されている。

象徴的な存在だ。鉱山における救助活動に特化したカンブリア鉱山救助隊のようなチームがウニモグを好む理由は、非常に重い荷物を運搬できることにある。最大7500kgの積載量と、比較的安価な中古車価格が魅力だ。

トヨタハイラックス

ハイラックスの不滅の信頼性は昔から高い評価を得ており、最新モデルもそれを受け継いでいる。いすゞDマックスと似たようなモデルだが、より充実した装備を選ぶことができる(その分高くなる)。

ポラリス・レンジャー

ポラリス・レンジャーは小型で軽量、そして地上を素早く移動できるという利点があるため、ロッセンデールやペンドルなど、アクセスしにくい場所にいる救助隊が好んで使用している。キャビンは暖房が効くので、冬の活動にも適している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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