聞き飽きないV型12気筒 フェラーリ250 GTE モータースポーツを支えた2+2 後編

公開 : 2022.08.14 07:06

素晴らしいサウンドがドライバーを満たす

現代の基準でも鋭いと表現できるほど、直線加速は意欲的。聞き惚れるような素晴らしいサウンドトラックも、常にドライバーを満たしてくれる。

低回転域から美しい和音を奏で、回転上昇とともにハードな音質へ変化していく。大人が嗜む2+2のグランドツアラーというより、モータースポーツが似合うベルリネッタのようなサウンドだ。オーナーの誰もが、聞き飽きないと話すのにも納得できる。

フェラーリ250 GTE(1960〜1963年/英国仕様)
フェラーリ250 GTE(1960〜1963年/英国仕様)

ツアーイベントでは、グレートブリテン島中部のコッツウォルズ地方にある小さな村、ブロードウェイを目がけて北上するという。250 GTEと330 アメリカ、15台のクラシック・フェラーリの行列が迫ってきたら、誰もが振り返るに違いない。

真新しいポルシェ911のドライバーでさえ、目が奪われるはず。このまま同行したいところだが、英国編集部の約束はお昼すぎまで。美しい車列を見送ることになった。

価値の上下動にとらわれず、クラシックカーを運転して楽しむというオーナー像に惹かれてしまう。投資対象に捉えていたら、走行距離を積極的に伸ばそうとは考えないだろう。

330 アメリカのオーナー、ブライアン・ボルジャー氏は、ルーフに2台のマウンテンバイクを載せて普段も旅行を楽しんでいるという。オーナー同士の友情も深いようだ。

近年になって、多くのコレクターが価値を再認識し始めたフェラーリ250 GTE。だが、これまで見過ごされてきたクラシックを、彼らは以前から大切に維持し楽しんできた。その誇りが、表情へ滲み出ているように思えた。

番外編:エンツォも運転した250 GTE

今回のイベントに参加したデビッド・ウィーラー氏は、250 GTEに関して知らないことがないほど、深い知識を有している。実際、専門書の執筆も手掛けた。シャシー番号2713GTのシリーズ1と、素晴らしいフェラーリ・ライフを謳歌している。

「このクルマは、ちょっとしたテストに用いられていました。ニュルブルクリンクのパドックにその写真が残っていますが、エンツォ・フェラーリ氏がF1イタリア・グランプリに乗り付けたクルマでもあるようです」

フェラーリ250 GTEとオーナーのデビッド・ウィーラー氏
フェラーリ250 GTEとオーナーのデビッド・ウィーラー氏

「確証は取れていません。でも、素晴らしいストーリーだと思いませんか?」。さらに、シリーズ3のスタイリングを決めるうえでのプロトタイプにもなったようだ。

「レーシング・ドライバーのマイク・パークス氏が、フェラーリに加わったのは1963年1月。会社から貸与車両として渡されたのが、このクルマでした。その時点でシリーズ3風に改良を受けています」

「オリジナルのボディはベージュでした。ですが、美しいゴールデン・ブラウン、ノッチョーラに塗装し直されています」

ウィーラーは、ほかにもV型12気筒のフェラーリを多数所有してきた。だが、近年になってアメリカから英国へ引っ越した際、手元に残したのは250 GTEだけだったという。

「美しいクルマです。ボディラインはエレガントで、1960年代のピニンファリーナ社のベストだと考えています。2+2のボディは大きいですが、軽くて扱いやすいクラシック・フェラーリです。運転するのが楽しくて仕方ありません」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームズ・ページ

    James Page

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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