聞き飽きないV型12気筒 フェラーリ250 GTE モータースポーツを支えた2+2 後編
公開 : 2022.08.14 07:06
素晴らしいサウンドがドライバーを満たす
現代の基準でも鋭いと表現できるほど、直線加速は意欲的。聞き惚れるような素晴らしいサウンドトラックも、常にドライバーを満たしてくれる。
低回転域から美しい和音を奏で、回転上昇とともにハードな音質へ変化していく。大人が嗜む2+2のグランドツアラーというより、モータースポーツが似合うベルリネッタのようなサウンドだ。オーナーの誰もが、聞き飽きないと話すのにも納得できる。
ツアーイベントでは、グレートブリテン島中部のコッツウォルズ地方にある小さな村、ブロードウェイを目がけて北上するという。250 GTEと330 アメリカ、15台のクラシック・フェラーリの行列が迫ってきたら、誰もが振り返るに違いない。
真新しいポルシェ911のドライバーでさえ、目が奪われるはず。このまま同行したいところだが、英国編集部の約束はお昼すぎまで。美しい車列を見送ることになった。
価値の上下動にとらわれず、クラシックカーを運転して楽しむというオーナー像に惹かれてしまう。投資対象に捉えていたら、走行距離を積極的に伸ばそうとは考えないだろう。
330 アメリカのオーナー、ブライアン・ボルジャー氏は、ルーフに2台のマウンテンバイクを載せて普段も旅行を楽しんでいるという。オーナー同士の友情も深いようだ。
近年になって、多くのコレクターが価値を再認識し始めたフェラーリ250 GTE。だが、これまで見過ごされてきたクラシックを、彼らは以前から大切に維持し楽しんできた。その誇りが、表情へ滲み出ているように思えた。
番外編:エンツォも運転した250 GTE
今回のイベントに参加したデビッド・ウィーラー氏は、250 GTEに関して知らないことがないほど、深い知識を有している。実際、専門書の執筆も手掛けた。シャシー番号2713GTのシリーズ1と、素晴らしいフェラーリ・ライフを謳歌している。
「このクルマは、ちょっとしたテストに用いられていました。ニュルブルクリンクのパドックにその写真が残っていますが、エンツォ・フェラーリ氏がF1イタリア・グランプリに乗り付けたクルマでもあるようです」
「確証は取れていません。でも、素晴らしいストーリーだと思いませんか?」。さらに、シリーズ3のスタイリングを決めるうえでのプロトタイプにもなったようだ。
「レーシング・ドライバーのマイク・パークス氏が、フェラーリに加わったのは1963年1月。会社から貸与車両として渡されたのが、このクルマでした。その時点でシリーズ3風に改良を受けています」
「オリジナルのボディはベージュでした。ですが、美しいゴールデン・ブラウン、ノッチョーラに塗装し直されています」
ウィーラーは、ほかにもV型12気筒のフェラーリを多数所有してきた。だが、近年になってアメリカから英国へ引っ越した際、手元に残したのは250 GTEだけだったという。
「美しいクルマです。ボディラインはエレガントで、1960年代のピニンファリーナ社のベストだと考えています。2+2のボディは大きいですが、軽くて扱いやすいクラシック・フェラーリです。運転するのが楽しくて仕方ありません」