自動車業界の「異端児」? シトロエン代表とパリで過ごした一日 クルマはどうあるべきか

公開 : 2022.08.01 18:05

プラットフォーム共有の制約は?

この大きな部屋で展示されているクルマは、シトロエンの異質さを表している。C5エアクロスは、ファミリー向けSUVの中で強く異彩を放ちながらも、その特異なデザインスタイルからシトロエンであるということは明白に伝わる。さらに、新型C5 Xは、全長4.8mのサイズ感、彫刻的なサイドボディ、アグレッシブなファストバックスタイルなど、かつての大型シトロエンの面影を残しながら、車高が高く、室内空間も広い。

堂々たるクロスオーバーだが、筆者はプジョー308とプラットフォームが同じであることから、現代におけるシトロエンの自由度も、兄弟ブランドの構造を共有しなければならないという制約を受けているのではないかと考えた。コベは、この指摘を一蹴する。

コベ自身がハンドルを握る、新型C5 Xでパリ市内をドライブ。
コベ自身がハンドルを握る、新型C5 Xでパリ市内をドライブ。    AUTOCAR

「制約があるのは事実です。前の時代よりも大きいかもしれません。でも、そこが面白いんです。こういうものは、制約と捉えたときにそうなってしまうんです。このクルマはプジョー308と共通のプログラムですが、それを見破るのは専門家であっても難しいでしょう。C5 Xは、異なるホイールベース、異なるセグメント、異なる目的、異なる市場地位のために作られています。しかし、その機械的な関係から、非常に優れた快適性を、実に手頃な価格で提供することができるのです」

アミは、特にバギー仕様で、シトロエンのもう1つの可能性を示している。

「これは、他のメーカーがつくるには難しいクルマでしょう。酔った勢いで作ったと思われるかも。でも、わたし達はいいんです。こういうことは想定内。プロジェクトはまったくの白紙からスタートし、3つの目的を持たせました。移動の自由、都市の混雑解消、そしてクリーンモビリティは7万ポンド(約1100万円)もするべきではないということです」

もっと軽くて安いEVを

コベは、自社のクルマが完全な電動化に向かう中で、特にこの最後の点について声を大にして言う。

BMW iXは2.5トン、テスラモデルXは10万ポンド(約1600万円)です。どちらも素晴らしいクルマですが、誰のためのクルマなのでしょうか?シトロエンは6000ポンド(約100万円)から6万ポンド(約1000万円)の自動車会社であり、顧客と協力しながらバッテリーEVの購入を合理化することが仕事です」

コベCEO曰く、シトロエンは他者から「奇抜」と思われるようなことでもひるまずに挑戦するという。
コベCEO曰く、シトロエンは他者から「奇抜」と思われるようなことでもひるまずに挑戦するという。    AUTOCAR

シトロエンにとって重要なことは、重くてかさばる高価なバッテリーのサイズを制限し、日々の電動モビリティを手頃なものにすることであり、超長距離移動など「年に3日」程度の問題に対する解決策を見出すことであると彼は信じている。「わたしの父は40年間フォルクスワーゲンパサートに乗っていました。1台目は燃料タンクが80Lでしたが、最後は43Lで十分でした。父はその違いにすら気づかなかったのです」

シトロエンのようなブランドが目指すのは、BセグメントのEVの価格をICE車の2万ポンド以下(約320万円)にすることだが、コベはそれが簡単ではないことを認めている。「スケール効果、バッテリーやモーターだけでなく構造から重量を取り除くスマートな設計、バッテリーサイズに関する賢明な選択、より良いインフラと旅支度で補うことなどの助けが必要です」

シトロエンは、今後も型破りな発想を躊躇することはないだろうと、コベは言う。「わたしには、2つの仕事があります。シトロエンの個性と価値を守ること、そして年間100万台を販売することです。そのために奇をてらったことをするのかと言うと、そんなことはありません。しかし、うまくいくのであれば、他者が躊躇するようなことも進んで取り組みます」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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