タイヤの仕事 ニュルブルクリンク24時間レースの儚い活躍を追う ファルケン・ポルシェ
公開 : 2022.08.02 06:05
使用後も大切な役割
再び嵐が静まり、燃料が満タンになるのを待つ。誰も動かない。
そして約3分後、燃料ホースを抜き、シグナルボードを上げ、エンジンをかけると、タイヤが音を立てながら、計算されたホイールスピンで911を前に押し出す。
この後8周、70分ほどの間はただ転がり続けるだけで、何も起こらないよう誰もが願っている。ピットインの瞬間はタイヤの最大の見せ場のようにも思えるが、彼らの仕事はまだ始まったばかりである。
558psのパワーをアスファルトに伝え、1220kgの911を支え、1.6Gの横荷重を受けながら約200km、600以上ものコーナーを走り続けるのだ。
午後11時前、幸いにも何事もなくセッションは終了し、再びピットレーンに嵐がやってくる。4本の使用済みタイヤが無造作にガレージに運び込まれていく。
ここで、温度計や圧力計を手にした新しいチームがタイヤに飛びつく。ファルケンのタイヤエンジニアたちだ。日本から4名、ドイツから1名。彼らは、タイヤの内側、中央、外側の3か所で表面温度を測定する。走行中もモニタニングされているとはいえ、空気圧を測定し、徹底的なチェックを行う。
1時間以上グリーンヘルを走り回ったにもかかわらず、タイヤはまだ立派に残っている。サイドウォールは汚れているし、識別バーコードもはっきりしないが、表面はボロボロではなく、少し荒れている程度だ。素人目には、もうひとっ走りいけるんじゃないかと思えるほど。しかし、エンジニアの判断でリムから外され、二度と使われることはない。
しかし、このタイヤにはまだ1つだけ、やるべきことがある。それは、断面をスライスし、内部の有用な部分やダメージなどを検査すること。このゴムの切れ端は日本に送られ、分析され、将来のタイヤの改良に役立てられる。怒涛のように速く、短い人生ではあるが、タイヤの痕跡は永遠に残るのである。
レースで培った技術を一般道へ
モータースポーツがマーケティングツールとして重宝される昨今だが、競技用技術が市販モデルに転用されることもある。
ファルケンは、ニュルブルクリンク24時間レースを新たなイノベーションを試す環境として活用してきた。その1つが、アラミド強化構造である。アラミドは、ヘルメットやボディーアーマーによく使われる、強くて軽い合成繊維素材だ。代表的なものに「ケブラー」がある。
アラミド繊維をレースタイヤに使用し、世界で最も過酷なサーキットでレーシングカーの圧力に耐えられることを証明したファルケンは、この素材を新しい超高性能タイヤ、「アゼニスFK520」に導入した。
アラミドで強化された新構造により、タイヤの重量を10%削減すると同時に、強度を高めることに成功。性能とフィードバックが向上しただけでなく、燃費も改善されたようだ。モータースポーツ向きではないが、それでも非常に喜ばしいことだ。