ホンダの切り札 VTECのタイプR シビック/インテグラ/アコード 3台を振り返る 前編
公開 : 2022.08.21 07:05
かつて、ハッチバックのシビック以外にも存在したタイプR。英国編集部が、VTECエンジンの魅力を振り返りました。
切り札のVTECエンジンが載ったタイプR
近年のモデルは特に、日常的な運転でレブリミットまでエンジンを回す機会は少ない。クルマ好きなら、メカニズムに負担が掛かるということも理解しているだろう。
それでも、8000rpmや9000rpm目がけて回したい衝動に駆られる時がある。明るく輝く炎へ吸い寄せられる虫のように、許されるギリギリの回転数を求めてしまうドライバーも少なくないはず。バルブギアの機械的な響きが、右足を後押ししてくる。
そんな高回転ユニット好きの筆者にとって、今日は特別な日となった。3台のホンダ・タイプRを、グレートブリテン島南部、オックスフォードシャー州の一般道で解き放つことが許されている。
いずれにも、8000rpm以上まで回るホンダの切り札、VTECエンジンが載っている。興奮を抑えることが難しい。
目の前にあるのは、ホワイトのEK9型、初代ホンダ・シビック・タイプRと、ブラックのDC2型、インテグラ・タイプR。さらにもう1台、レッドのCH1型アコード・タイプRにもご登場願った。これは日本のCL1型アコード・ユーロRと、基本的には共通といえる。
英国の日本車ファン、特に1990年代のネオ・クラシック系を好む人は、シャシーやエンジンの型式でクルマを呼ぶことが多い。マニアだとわかってもらえるし、通算で何代目かを数えるよりクルマを理解しやすい。筆者も含めて。
現代の基準では控えめなルックス
最新型のシビック・タイプRには、沢山のエアインテークと大きなリアウイングが与えられている。ホットハッチの代名詞、ゴルフ GTIのテールゲート上にもスポイラーが生えている。
派手なボディキットに見慣れてしまったわれわれにとって、アコード・タイプRの見た目は特におとなしい。ホイールは、スピードライン社の控えめな17インチ。フェンダーアーチとの隙間も広い。
ボディはレッドだが、最近のペイントより彩度は低い。トランクリッドには高いウイングがそびえ、リアバンパーの下で2本のマフラーカッターが鈍く光る。堂々とした雰囲気はあるものの、スポーティさはほどほど。現代の基準では、タイプRらしくない。
インテリアも同様で、アコードに限らずブラックが基調。デザインはベーシックで、殆どがプラスティック然としていて、光沢に高級感はあまりない。少なくとも、作り付けはしっかりしているけれど。
見た目より快適な座り心地のレカロ・シートに、白い盤面のメーター、アルミニウム削り出しのシフトレバーが、ピリッと車内を引き締めている。当時の一般的なアコードと、目立った違いといえばその程度だろう。
しかし、外から見えないシャシーは別物。フロントがダブルウイッシュボーン式、リアがマルチリンク式のサスペンションには、専用のスプリングとダンパー、ブッシュ、アンチロールバーが組まれている。
ブレーキは、オールアルミのスーパーカー、初代NSX譲り。リミテッドスリップ・デフも組んである。