ホンダの切り札 VTECのタイプR シビック/インテグラ/アコード 3台を振り返る 中編
公開 : 2022.08.21 07:06
欧州に導入されなかったEK9型タイプR
ノーマルのシビックやインテグラでも、サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式。小さなハッチバックやクーペとして、充分に上等といえた。
タイプRでは、専用のダンパーにコイルスプリング、ブッシュ、アンチロールバーなどを獲得。またボディシェルの各部が強化され、ストラットブレースも追加され、剛性が高められている。リミテッドスリップ・デフも組まれた。
この2台では、EK9型シビック・タイプRがCH1型アコードの次に新しい。小さく軽くシンプルなホットハッチとして、プジョー205 GTiの終了で開いた穴を埋める存在になりえたはずだが、意外にも初代は欧州市場へ導入されなかった。日本限定のお宝だった。
シビックのインテリアが安っぽい、と表現するのは適切ではないだろう。確かに、カーボン調のグラフィックが与えられたメーターパネル周辺は、洗練されているとはいいにくいけれど。
フロアカーペットは、レカロ・シートと同じレッド。全体の質感を高めるものではないにしろ、間違いなくドライバーの気持ちは上げてくれる。
尖ったエッジを感じるアクセルレスポンス
チタン製のシフトノブを握り、レバーを左右に揺さぶり、ニュートラルであることを確かめる。ゲート間には、適度な弾力がある。これだけで、どこへ開発予算が投じられたのかを理解できる。見えないところに、しっかり注がれている。
キーをひねると、アコード・タイプRと同じようにVTECエンジンは即座に始動した。ところが、上質な素振りは一切ない。
余分なものが剥ぎ取られ、軽量化されたコンパクトなボディシエルは、外界の空気と車内とを隔離するという最低限の仕事しかしない。そのシリアスさが素晴らしい。
さらに、レーシングカーのようなアクセルレスポンスに、EK9型の尖ったエッジを感じる。ストロークは驚くほど短く、完全にオンかオフか、一方を選ぶスイッチのよう。どちらにするかと聞かれれば、今回はオンが適切だろう。
1.6Lエンジンへガソリンを送り込むと、6000rpmまでは4気筒らしいノイズで回転数が上昇していく。そこからVTECがカムを切り替え、躊躇なく叫び声を響かせ始め、レブリミットの針が跳ね上がる。胸のすくようなパワーとともに。
この続きは後編にて。