現代モデルでは得難い運転の喜び フェラーリ・テスタロッサへ試乗 父の愛車 後編

公開 : 2022.08.10 10:00

マラネロの伝説モデルの1つ、テスタロッサ。1988年に評価したものと同じクルマを、英国編集部が再試乗しました。

現代モデルでは味わえない運転する喜び

フェラーリテスタロッサの5.0L V型12気筒エンジンのマナーの良さには、今でも関心させられる。特に、音が静かなことには驚くだろう。

この時代のフェラーリのサスペンションは、路面のうねりや凹凸を滑らかにいなしてくれる。想像以上にしなやかな乗り心地で、少し混乱してしまうほど。

フェラーリ・テスタロッサ(1984〜1991年/英国仕様)
フェラーリ・テスタロッサ(1984〜1991年/英国仕様)

速さは、現代基準ではもはや驚くものではない。低速域ではキビキビと加速するものの、最高出力が得られる6800rpmまで回したとしても、ポルシェボクスターのトップグレードに離されてしまうだろう。

速度が高まるほど速く感じる、当時のフェラーリらしい体験は変わらず。130km/hを超える頃には、何かの縛りから開放されるように、流暢さが増していく。

フェラーリらしく、清々しく速い。広く開放的な道のためのスーパーカーだ。適切なルートで、クラシカルなオープンゲートのシフトレバーを動かし、3速と4速を往復させる。現代のモデルでは味わえない、運転する喜びを発見できる。

ニュルブルクリンクのラップタイムや、0-200km/hの加速時間、最高速度など、数字で示される尺度とは別の世界。ステアリングホイールへ伝わるダイレクトな路面の感触や、出色の多気筒エンジンのリアルなサウンドを堪能できる。

トラクションをコントロールするのは、ドライバーの右足のみ。グリップ限界は把握しやすく、クルマを操っているという実感が濃い。人工的な味付けの体験とは異なる。

時間を重ねた素晴らしいフェラーリ

1988年のAUTOCARの紙面で、筆者の上司は次のようにテスタロッサをまとめている。「圧倒的な動力性能に完璧といえるロードマナー、運転席からの優れた視認性を備えています」

「9万ポンドという価値に見合った、本物の質感を備えたクルマ。ボディがワイドすぎるという批判は、ナンセンスでしょう」

フェラーリ・テスタロッサ(1984〜1991年/英国仕様)
フェラーリ・テスタロッサ(1984〜1991年/英国仕様)

その当時は、父のテスタロッサをもっと褒めて欲しいとも感じた。だが、改めて試乗してみると充分な表現に思える。史上最高のスーパーカーでもないし、歴代でトップ10入りするフェラーリでもないだろう。それでも、良いクルマだ。

優れたモデルの多くは、月日とともに熟成され良い味わいを増していく。反対に優れないクルマは、どんどん悪くなっていく。時間を重ねたテスタロッサは、素晴らしいフェラーリだと感じることができた。

クラシックカーとなった今では、シリアスに能力を評価する必要はない。スタイリングやサウンド、スーパーカーとしての個性を楽しむべき存在だといえる。一般道でのリラックスした振る舞いを享受したいと思える。

当初の期待通り、フェラーリ・テスタロッサとの再会で素晴らしい1日になった。恐らく筆者がこれに乗る機会は、もう2度とやって来ないだろう。そう考えると、心に刻むべき1日でもあったようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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