現代モデルでは得難い運転の喜び フェラーリ・テスタロッサへ試乗 父の愛車 後編
公開 : 2022.08.10 10:00
マラネロの伝説モデルの1つ、テスタロッサ。1988年に評価したものと同じクルマを、英国編集部が再試乗しました。
現代モデルでは味わえない運転する喜び
フェラーリ・テスタロッサの5.0L V型12気筒エンジンのマナーの良さには、今でも関心させられる。特に、音が静かなことには驚くだろう。
この時代のフェラーリのサスペンションは、路面のうねりや凹凸を滑らかにいなしてくれる。想像以上にしなやかな乗り心地で、少し混乱してしまうほど。
速さは、現代基準ではもはや驚くものではない。低速域ではキビキビと加速するものの、最高出力が得られる6800rpmまで回したとしても、ポルシェ・ボクスターのトップグレードに離されてしまうだろう。
速度が高まるほど速く感じる、当時のフェラーリらしい体験は変わらず。130km/hを超える頃には、何かの縛りから開放されるように、流暢さが増していく。
フェラーリらしく、清々しく速い。広く開放的な道のためのスーパーカーだ。適切なルートで、クラシカルなオープンゲートのシフトレバーを動かし、3速と4速を往復させる。現代のモデルでは味わえない、運転する喜びを発見できる。
ニュルブルクリンクのラップタイムや、0-200km/hの加速時間、最高速度など、数字で示される尺度とは別の世界。ステアリングホイールへ伝わるダイレクトな路面の感触や、出色の多気筒エンジンのリアルなサウンドを堪能できる。
トラクションをコントロールするのは、ドライバーの右足のみ。グリップ限界は把握しやすく、クルマを操っているという実感が濃い。人工的な味付けの体験とは異なる。
時間を重ねた素晴らしいフェラーリ
1988年のAUTOCARの紙面で、筆者の上司は次のようにテスタロッサをまとめている。「圧倒的な動力性能に完璧といえるロードマナー、運転席からの優れた視認性を備えています」
「9万ポンドという価値に見合った、本物の質感を備えたクルマ。ボディがワイドすぎるという批判は、ナンセンスでしょう」
その当時は、父のテスタロッサをもっと褒めて欲しいとも感じた。だが、改めて試乗してみると充分な表現に思える。史上最高のスーパーカーでもないし、歴代でトップ10入りするフェラーリでもないだろう。それでも、良いクルマだ。
優れたモデルの多くは、月日とともに熟成され良い味わいを増していく。反対に優れないクルマは、どんどん悪くなっていく。時間を重ねたテスタロッサは、素晴らしいフェラーリだと感じることができた。
クラシックカーとなった今では、シリアスに能力を評価する必要はない。スタイリングやサウンド、スーパーカーとしての個性を楽しむべき存在だといえる。一般道でのリラックスした振る舞いを享受したいと思える。
当初の期待通り、フェラーリ・テスタロッサとの再会で素晴らしい1日になった。恐らく筆者がこれに乗る機会は、もう2度とやって来ないだろう。そう考えると、心に刻むべき1日でもあったようだ。