戦前の英国スポーツ フレイザー・ナッシュ エース・パイロットが駆ったTTレプリカ 後編
公開 : 2022.08.27 07:06
1人のエース・パイロットがオーナーだったフレイザー・ナッシュ。彼の短い人生とともに、戦前の英国スポーツを振り返ります。
数名のオーナーが維持してきたTTレプリカ
若きパイロット、オリバー・バートン・ジェームズ氏は、現在のグッドウッド・サーキット、グレートブリテン島南部のウェスサンプネット飛行場の第245飛行隊へ配属。フランスへ展開するドイツ軍の鉄道や軍隊車両、基地への攻撃に当たった。
しかし、1943年10月4日に彼の運は尽きた。ジェームズが操縦桿を握るホーカー・タイフーン戦闘機は、ドイツ軍のフォッケウルフ Fw190戦闘機と交戦。撃墜され、パイロットとコパイロットの2人が命を落とした。
23歳のジェームズは、フランス北部のエヴルー墓地に埋葬されたのだった。生まれた娘の顔を見ることなく。
彼の死を受け、所有していたフレイザー・ナッシュ TTレプリカ、「フレディ」は売りに出されたが、数名のオーナーが大切に乗り継いできた。当初のツートーン・ボディは塗り替えられ、メドウズ・エンジンは載せ替えられたが、約70年間生き延びている。
1967年から維持してきたのは、北アイルランドに住むジョー・フェアリー氏。彼の人生の中心にあったのは、フレイザー・ナッシュだったといっていい。
BMK 102のナンバーで登録されたTTレプリカは、英国のビンテージ・スポーツカー・クラブのイベントにも参加。アルプス山脈で開かれる、ナッシュ・レイドというツーリング・イベントにも定期的に姿を見せていた。
ロータリー交差点ではドリフトがお決まりだった。約50年間、存分にフレイザー・ナッシュで興奮を味わった彼は、高齢を理由に売却を決断。2018年にブランド・マニアで現オーナーの、パトリック・ブレイクニー-エドワーズ氏が買取った。
あえて波打つオリジナルのボディパネル
ブレイクニー-エドワーズが詳しくフレイザー・ナッシュを調べると、ジェームズがオーナーだったことが判明。オリジナルのエンジンブロックの番号が、10402であることも確認した。
「残っていた書類で、オーナーの名前が明らかになったんです。1994年のミリタリア・コレクターという雑誌を遡ると、勇敢なパイロットだったという記事も発見。その物語に、強く惹かれました」
クラシックカー・ディーラーのピーター・ブラッドフィールド氏の助けを借り調査を重ね、驚くことにジェームズの親族と連絡を取ることにも成功。BMK 102に関する手紙や写真が発見された。
「今では信じられないような物語です。知るほど興味が湧いてきます」。と話すブレイクニー-エドワーズは、本来の姿に戻す必要性を理解。ブランドを得意とするウェイン・フェアリー氏とともに、徹底的なレストアが始まった。
「好調に動いていたクルマらしく、良く手入れされていました。新しいベアリングとステアリング、スプロケット、ブレーキシューを組んでいます」。とフェアリーが振り返る。
木製フレームのボディ、フェンダーなどのヒビは修理されたが、パネル自体はオリジナル。完璧過ぎる仕上げは不自然という理由で、パネル表面の波打ちはあえて残してある。
ボッシュ社製の灯火類もオリジナルのまま。ハンドスロットル・レバーやフロントガラスのフレームなど、当時物の素晴らしい部品も見つけ出した。
エンジンは本来と同じ、メドウズ社製が組み直された。試運転では、112ps/6050rpmと14.9kg-m/5000rpmを発揮するのを確かめたという。