戦前の英国スポーツ フレイザー・ナッシュ エース・パイロットが駆ったTTレプリカ 後編

公開 : 2022.08.27 07:06

見た目と同じく走りも素晴らしい

ボディはジェームズの頃と同色の、ブラウンとアイボリーのツートンが選ばれた。ブレイクニー-エドワーズは、可能な限り当時の色を再現するため、かなりの時間を割いている。メッキ類はニッケルで仕上げてある。

内装はアップル・レザーで仕立てられ、ダッシュボードを彩るポイントとして、スミス社製の航空機用時計が選ばれた。果たして、フレイザー・ナッシュは見事に蘇った。

フレイザー・ナッシュ TTレプリカ(1932〜1938年/英国仕様)
フレイザー・ナッシュ TTレプリカ(1932〜1938年/英国仕様)

太陽の光に照らされるフレディは壮観だ。ツートーンが、1940年代のブルージーな雰囲気を漂わせる。実際にステアリングホイールを握ると、さらに感心する。見た目と同じく、走りも素晴らしい。

この貴重なクルマの撮影場所として選んだのは、ロンドンの北、ベッドフォードシャーにあるシャトルワース・コレクション。所蔵する1941年式ホーカー・ハリケーン戦闘機を、快く取材のために格納庫から出してくれた。

1044psのマリーン社製V型12気筒エンジンを搭載し、476km/hでの飛行が可能だった。現存する最も古い機体で、フレイザー・ナッシュとの素晴らしいペアになった。

この付近には、TTレプリカを加速させるのに充分なストレートと、操舵性を確かめるのに丁度いいロータリー交差点がある。森林地帯が残り、70年前にワープしたような景色が広がる。筆者お気に入りのドライブエリアだ。

戦前のモデルながら驚くほど扱いやすい

ドアは助手席側のみ。フラットなシート上で身体を滑らせながら、4スポーク・ステアリングホイールの正面へ座る。

新しく組まれた4気筒のメドウズ・ユニットは、荒々しい排気音を放つ。高回転域まで回すと音質が高くなり、スポーティな印象へ変わっていく。

フレイザー・ナッシュ TTレプリカ(1932〜1938年/英国仕様)
フレイザー・ナッシュ TTレプリカ(1932〜1938年/英国仕様)

メカニズムが冷えた状態では、ブレーキペダルを踏むと左側へボディが引っ張られる。コーナーではアンダーステアが強い。だが、すべてが温まると本来の性格が表れてくる。

スポーツカーとしては、シフトレバーがボディ外側に取り付けられた最後に当たる。1速は、かなり前方へレバーを倒す必要がある。それ以降の変速は小気味よくできる。クラッチペダルを踏むことなく、速度が増すほどクイックにこなせる。

ハイレシオのステアリングは軽く、アクセルペダルの加減で旋回姿勢も調整できる。交通量の少ないロータリー交差点は、まさに遊び場。テールスライドを誘うことを、抑えることが難しい。

温まれば、ブレーキもまっすぐ効く。メドウズ・ユニットは回転域を問わずトルクが太い。戦前に生産されたクルマでは、このフレイザー・ナッシュほど扱いやすいモデルはないかもしれない。

ブレイクニー-エドワーズも、操縦性や乗り心地を高く評価している。オリジナルのシャシーは、程良くしなるという。

現代モデルでも驚くようなスピード

試乗を終え、様子を眺めていたオーナーの前へ戻ると、充分にエンジンを回していなかったと指摘された。交代した彼は、現代モデルでも驚くようなスピードで走ってみせた。

ブレイクニー-エドワーズは、適正にレストアしただけでなく、BMK 102の歴史もつまびらかにした。ジェームズが眠る、フランス北部を訪ねるロードトリップを計画しているという。

フレイザー・ナッシュ TTレプリカと、オーナーだったオリバー・バートン・ジェームズ氏
フレイザー・ナッシュ TTレプリカと、オーナーだったオリバー・バートン・ジェームズ氏

戦争を美化するつもりはまったくないが、勇敢に戦ったパイロットが所有していたスポーツカーを運転するという体験は特別なものだった。自由にクラシックカーを謳歌できる、平和の尊さを忘れてはいけない。

協力:ピーター・ブラッドフィールド、ブレイクニー・モータースポーツ、シャトルワース・コレクション

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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