見た目は60年代風、中身は未来 EVになった初代フォード・マスタング 生産施設に潜入

公開 : 2022.08.16 06:05

マッスルカーらしいダイナミクス

動力性能のチューニングも非常に重要だ。「ニュルブルクリンクで記録更新を目指すわけではありません」と、最高技術責任者(CTO)のマタス・シモナビシウスは語る。「それはマッスルカーらしくはないでしょう。ドライブをもっと楽しく、もっと日常的に使えるようなダイナミクスが欲しいのです」

マスタングのダイナミクスを特徴づけるのは、各モーターの個別制御によるトルクベクタリングで、理論上は逆回転させることも可能だ。このため、生産工場には、駆動特性の設定と微調整を行うための四輪ダイナモメーターを備えたテスト施設が設置されている。

工場内を走るエレクトリック・マスタング。
工場内を走るエレクトリック・マスタング。

前後重量配分は42:58と、マッスルカーとしては異例なほどバランスがとれている。これはメインバッテリーを中央に配置することで、デトロイト製V8エンジンのようにフロントアクスルに重量が集中するのではなく、クルマの中心に重量を集中させているため。

リアのサブフレームとモーターアッセンブリーの重量は298kgで、フロントよりやや重い。後方に配置されたセカンドバッテリーも合わせ、重量は後方に偏っている。

次の新モデルはどんなクルマに?

2023年の納車開始に向けて、エレクトリック・マスタングのプロジェクトはまだ立ち上げ段階だが、チャージ・カーズは次の新製品を考え始めている。

ロバーツは、「次のプロジェクトについては、毎日のように話し合っています」と語る。「また一から作り直すこともできるし、自分たちでデザインすることもできる。さすがにクルマ好きの会社だけあって、いろいろなアイデアが出てきますね」

英国ミドルセックスにあるチャージ・カーズ社の生産施設。
英国ミドルセックスにあるチャージ・カーズ社の生産施設。

おそらく、バッテリーやモーターは現行の改良型が採用されるだろう。しかし、どのようなクルマに搭載されるかは、社内でも熱い議論が繰り広げられているようだ。

ロバーツによると、英国製スポーツカーによく見られる「小型のオープンカー」などは、航続距離を稼ぐために必要な大型バッテリーに適合しないとして候補から除外されているという。しかし、「ある年代以上」のデザインでは、ライセンス契約なしで使用できるものがあるとのこと。

さらに、大型バッテリーを搭載したマスタングのロングレンジモデルや高性能モデル、限定モデルについても検討されている様子。とはいえ、最高出力543ps、最大トルク155kg-m、最高速度250km/h、0-97km/h加速3.9秒という性能は、すでに十分パワフルなものだ。

では、チャージ・カーズ社の作品を買うのはどんな人なのだろうか?驚くことではないかもしれないが、最も関心が高いのはマスタングの熱狂的なファンがいる米国で、顧客はガソリンエンジンのマスタングを少なくとも1台は所有していると思われる。また、英国、欧州、アジアからの需要もある。

ロバーツによれば、顧客の中にはすでに全額の35万ポンド(約5600万円)と税金を一括で支払った人もいるそうだ。また、5万ポンド(約800万円)の予約金で生産枠を確保した人もいる。もちろん、フランク・ブリット(映画『ブリット』でスティーブ・マックイーンが演じた主人公)のイメージカラーであるハイランド・グリーンの注文も入っている。

自身の富と環境への配慮を誇示すると同時に、クラシックなアメリカン・メタルへの情熱を示す。チャージ・カーズ社が1960年代のクラシックカーを電動化するロマンは、そこに集約されているのかもしれない。この組み合わせは、勝利の方程式と言えるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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