ハンス・グラース2600 V8とBMWグラース1600 GT 希少なドイツ製クーペ 2台を比較 前編
公開 : 2022.08.28 07:05
目標の200km/hに届かなかった最高速
ハンス・グラース社は、当初直列6気筒エンジンを考えていた。しかし、V8エンジンのBMW 3200 CSが直列4気筒の2000 CSへ置き換わるタイミングにあり、特色として選ばれたようだ。
2600 V8が目指した最高出力は142psで、最高速度は200km/h以上。西ドイツの4シーターモデルで最速といえる性能なら、注目を集められると考えたのだろう。この頃、同国の乗用車でV8エンジンを選べたのは、ほかにメルセデス・ベンツ600だけだった。
実際、V8エンジンのクーペには多くのドイツ人が関心を示し、フランクフルトでの発表時にはプロトタイプを覆い隠すように観衆が押し寄せた。納車が始まったのは1966年7月。ソレックス・キャブレターを3基並べることで、最高出力は152psを実現していた。
アウトバーンとの親和性を高めるため、162psの3.0L仕様、3000 V8もラインナップされた。0-97km/h加速時間は、2.6L版の11.0秒から9.4秒へ短縮していたが、目標の最高速度には届かなかった。BMW 3200 CSは、200km/hを超えられたのだが。
吸収合併されていなければ、3.2Lのサルーンも登場していたかもしれない。だが、新しい体制下でも充分な需要は集めきれず、ハンス・グラース社のV8エンジンはそっと姿を消すことになる。
BMWは、より速く美しい、M30型の直列6気筒エンジンを載せた2800 CSを発表。2600 V8と3000 V8は、1968年6月をもって生産を終了している。
1967年の英国価格は3046ポンドで、極少数が輸入されたようだ。現在の英国で生き残っているのは、2台か3台程度だという。
5年間を掛けて腐ちた状態からレストア
今回ご登場願ったグラハム・ジャフス氏のハンス・グラースは、ベストといえるコンディションにある。BWM 2000 CSへの造詣が深い彼は、50年間に及ぶマニア歴を通じて関連モデルの殆ども所有してきた。
シャモニー・ホワイトが眩しいクーペのレストアへは、5年間を費やしている。2016年に仕上げて以降、1万6000kmほどを走らせた。現在79歳だという彼は、まだ体力に自信があるようだ。
ドイツ北部、エッセンへのグランドツアーも敢行した。現地のコレクターの目に留まり、4桁万円でのオファーを受けたというが、お金より2600 V8を選んだらしい。腐ちていた状態からの再生には、それ以上の手間が掛かってもいた。
この2600 V8はドイツ・ミュンヘンで販売され、英国へ上陸したのは1980年代後半。だが、ロンドンの郊外で28年間も放置さていたという。
「フロントグリルやサイドシル、フロアは完全にイチから作り直しています。バルクヘッドにもだいぶ時間を割きました。ドイツのグラース・クラブはレストアの大きな助けになりましたね」。ジャフスが説明する。Cピラーのフルア・エンブレムも特注品だ。
エンジンは、専門家のユルゲン・ベンシュ氏によってリビルドされた。ジャフス本人もサスペンションをアップデートし、ワイドなタイヤを履かせて見た目を引き締めている。
シートは、本来はクロスとビニールで仕立てられていたが、ダークブルーのレザーで張り直している。ヘッドレストはBMW 3.0 CS用。フロントノーズには、BMWのロゴと「g」を模したハンス・グラースのロゴが共存する。
この続きは後編にて。