ハンス・グラース2600 V8とBMWグラース1600 GT 希少なドイツ製クーペ 2台を比較 後編

公開 : 2022.08.28 07:06

最終的にBMWへ買収されたハンス・グラース。ドイツの2つのブランドによる希少なクーペを、英国編集部がご紹介します。

キドニーグリルが追加されたフロントマスク

レッドのクーペは、ハンス・グラース2600 V8と同じくグラハム・ジャフス氏がオーナーのBMWグラース1600 GT。ハンス・グラース1300 GTや1700 GTから転じたモデルで、ツイン・ソレックスの1600tiエンジンを搭載する。

ボディは当初のフルア・デザインのまま、キドニーグリルが追加してある。1967年にBMWが同社を買収して以降、1968年6月までに1298台が生産された。1990年代にZ3が登場するまで同社では途絶えることになる、コンパクトなクーペだ。

ホワイトのハンス・グラース2600 V8と、レッドのBMWグラース1600 GT
ホワイトのハンス・グラース2600 V8と、レッドのBMWグラース1600 GT

南アフリカで販売され、18年前にジャフスがカーコレクターから購入したという。2600 V8より小柄で美しく運転しやすいため、80歳を迎える彼にとっては大切なモデルだと話す。

「BMWのドライブトレインが載っているので、ハンス・グラース時代のモデルより扱いが簡単。今後も維持したい1台ですね」

エッジの立った2600 V8が堂々とした佇まいなのに対し、1600 GTは可憐で愛らしい。ボンネットを開くと、BMWの1.6L 4気筒エンジンが傾けられて搭載されている。空間に余裕はなく、エアボックスが大きい。

2600 V8の方は、エンジンが比較的コンパクトに見える。ジャフスは冷却ファンを追加し、ラジエーターの容量も増やしたという。

長いドアを開くと、2600 V8は大人4名が問題なく乗れる4シーダーだとわかる。1600 GTは2+2のシートレイアウトだが、実際は+1程度の広さしかない。

共通点が殆どないドライブフィール

2台とも快適なドライビングポジションを取れ、運転席側は足もと空間にも余裕がある。ステアリングホイールが大きく、視界は良好。特に2600 V8の方はレザーとクロームメッキで仕立てられたダッシュボードが低く、金魚鉢のように全方向を見渡せる。

細部の作り込みも、より洗練されている。ずらりと7枚もメーターが並んだパネルは、カーブを描き確認しやすいだけでなく、鑑賞対象としても優れている。ステアリングコラムから伸びるレバーは、メルセデス・ベンツ230 SL用のものらしい。

BMWグラース1600 GT(1967〜1968年/欧州仕様)
BMWグラース1600 GT(1967〜1968年/欧州仕様)

発進させると、2台には共通点が殆どない。2600 V8のサウンドは心地良い。滑らかにパワーが生み出され、低回転域でも粘り強い。穏やかに運転するのに丁度いい反面、V8エンジンへ期待するような太いトルク感はない。

ゲトラグ社製の4速MTは、サクサクと気持ち良く変速できる。刺激は薄く、リアタイヤを空転させることは難しいようだ。

アクセルペダルを踏み込むほどに、ツインチョークが徐々にガソリンの供給量を増やしていく。5500rpmのレッドライン目がけて気持ちよく吹け上がるが、2000rpmから4000rpmの間が特に滑らか。本域に入ると、想像以上に速く走る。

2600 V8の乗り心地は少々硬め。三角窓から口笛のような風切り音が聞こえるものの、それ以外の車内は静か。運転しやすい特徴と、ニュートラルな操縦性で、優雅に流したいという気持ちになってくる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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