メルセデス・ベンツC 220dアバンギャルド試乗 先進技術のアドバンテージ、往年のメルセデスの心地よさ

公開 : 2022.08.20 05:45

足まわりは往年のメルセデス

サスペンションのセッティングがソフトで、デコボコした道を走っても足まわりからゴツゴツした感触がほとんど伝わらないのもC 220dの魅力の1つ。

しかも、そうした振幅が小さな領域がソフトに感じられるだけでなく、ダンパーが大きくストロークする領域でも乗り心地はふんわりしなやかとしていて、実に快適なのだ。

メルセデス・ベンツC 220dアバンギャルドの足まわりは往年のメルセデスの乗り味を彷彿とさせる。
メルセデス・ベンツC 220dアバンギャルドの足まわりは往年のメルセデスの乗り味を彷彿とさせる。    近藤浩之

わたし自身は、これがメルセデス・ベンツの本来あるべき姿だと思っている。

いまから30年近く前のメルセデスは、どれもサスペンションストロークがたっぷりとしていて、路面からどんなショックが加わっても、それを懐深く受け止める鷹揚さを備えていた。

それゆえにハンドリング自体は決して機敏とはいえなかったけれど、当時は高級車にそんなキャラクターが求められることはなかった。

それでも高速道路では優れたフラット感を生み出し、長距離ドライブを安楽に楽しむことができた。

そして、そうした快適性こそがメルセデスの本領であるとして尊ばれたのである。

けれども、ある時期からメルセデスはアジリティという価値を標榜し始める。

それは、メルセデスというブランドが若返るために必要な措置だったかもしれないが、おかげでしなやかな快適性は影を潜め、ゴツゴツとした手触りの硬さが前面に出た乗り心地になってしまった。

軽量化を推し進めたボディのダンピング性能が低下したことも、こうした傾向に拍車をかけているように思われた。

けれども、「タイプ206」のCクラスは違う。

往年のメルセデスを思い起こさせる柔軟な足まわりは路面からの衝撃を巧みに吸収し、快適な乗り心地をもたらしてくれる。

ときとして、周期の速い大入力に対してはこわばった反応を示したり、ボディの制震性にかすかなほころびを感じさせることもあるけれど、これらは目をつぶれる範囲。

しかも、かつてのメルセデスとは違ってコーナリング時のロールがしっかりと抑え込まれている点も嬉しい。

「ああ、よき時代のメルセデスが帰ってきてくれた……」

わたしにはそんな風にさえ思える足まわりである。

先進技術は明確なアドバンテージ

新型Cクラスの魅力は、そうした古典的な価値観に根差したものばかりではない。

たとえば先進運転支援装置の充実振りはメルセデスの明確なアドバンテージ。

メルセデス・ベンツC 220dアバンギャルド
メルセデス・ベンツC 220dアバンギャルド    近藤浩之

この辺は、ライバルに先駆けて先進運転支援装置の開発を進めてきた実績が、そのまま性能に反映されているように思う。

たとえばアクティブディスタンスアシスト・ディストロニック(アダプティブクルーズコントロール)やアクティブステアリングアシスト(アクティブレーンキーピング)の動作のスムーズさ、そして精度の確かさは舌を巻くほど。

アダプティブクルーズコントロールのブレーキングに関していえば、たいていのメーカーの製品は「なんで、もうちょっと手前からブレーキを踏まないかねえ」とか「うわ、そのブレーキは急過ぎるでしょう」と思うことがしばしばだが、メルセデスではそういうことはまず起きない。

減速すべき状況が明らかになると、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックはいち早く減速を始めるのだけれど、あくまでも弱めの減速Gを一定に保ったまま、止まるべきポイントでぴたりと停止してくれる。

これはアクティブステアリングアシストも同様で、まるでコーナーの曲率をあらかじめ知っていたのではないかと思うくらい、スムーズにステアリングを切り始め、一定舵角を保ち続けてくれる。その運転のスムーズさは、プロが理想とする形に限りなく近いように思う。

ユーザーインターフェイスのMBUXもライバルの追随を許さない。その音声認識力が優れているだけでなく、人間の自然な発話を的確に理解する能力は完璧といっていいほど。

しかも、MBUXの動作がおよぶ範囲が、インフォテインメント系だけでなく、たとえばスライディングルーフやパワーウィンドウなどにもおよぶ点が素晴らしい。

したがって、MBUX欲しさにメルセデスを選ぶ顧客がいたとしてもわたしは決して驚かないだろう。

というわけで、乗り心地、パワートレイン、インフォテインメントのどこをとっても決定的な弱点が見当たらないCクラスは、このセグメントのリーダーとなるポテンシャルを十分備えていると評価できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 撮影

    近藤浩之

    Hiroyuki Kondo

    某自動車雑誌を経てフリーに。2013年に(株)スカイピクチャー設立(とはいっても1人で活動)。仕事は写真/動画の撮影編集、たまに作文。対象はクルマを始め、建築/フード/人物など幅広いが、要は何でも屋の便利屋。苦手なことは、自分のプロフィールを自分で書くこと(要はこの文章)

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