毎日が特別になる マクラーレンGT(最終回) 長期テスト 普段の道で感じる喜び

公開 : 2022.09.03 09:45

最高出力620psのグランドツアラー、マクラーレンGT。英国編集部が毎日の通勤に利用し、その能力を検証します。

積算5236km V8ミドシップで長距離通勤

ちょっとしたコトをきっかけに、面白い毎日が始まることもある。まだ寒かったある日、AUTOCARのオフィスにいると、デスクのPCに同僚から短いメッセージが届いた。

マクラーレンGT長期テストをやってみたいと思いませんか?」。ボンヤリしていた頭が、一気に冴えたのを覚えている。この仕事は、普通なら難しいであろうモデルにも乗ることができる。それでも、マクラーレンは特別だ。

マクラーレンGT ルクス(英国仕様)
マクラーレンGT ルクス(英国仕様)

それから数か月後、マクラーレンGTの長期テストを終え、目の前から消えてしまったその日は暗い1日になった。鮮やかなベリーズ・ブルーに塗られたスーパーカーが停まっていない自宅の前は、灰色に淀んで見えた。

初日がバラ色だったわけではない。マクラーレンのグランドツアラーで毎日の長距離通勤をこなすのだから、不安は多かった。エキサイティングに思えたことは、確かではあるけれど。

カーボンファイバー製のタブシャシーに、ミドシップされたV8エンジン。低い位置に据えられた2脚のバケットシート。朝晩の通勤には、適したパッケージングとは感じられなかった。

マクラーレンGTが得意とすることは、急ぎ足の長距離クルージング。ゆったりとシートを傾け、南フランスを目指すようなクルマといえる。その目的に特化している。

クルマへ近づき乗るだけでも非日常的

ところが1週間ほど付き合ってみると、懐の深いモデルであることが見えてきた。トラディッショナルなグランドツアラーではないにしろ、普段使いにも対応できる柔軟性を備えていた。長距離通勤にも問題はなかった。

むしろ、大胆に開くディヘドラル(通称ガルウイング)ドアが、ロングドライブへの気持ちを高ぶらせてくれた。毎朝、クルマに近寄るという行為自体が記憶に残るものだった。

マクラーレンGT ルクス(英国仕様)
マクラーレンGT ルクス(英国仕様)

退屈な玄関のドアを開くと、20mほど先にマクラーレンが停まっていた。滑らかなフォルムを一通り眺め、マクラーレンのロゴが付いた非接触キーのボタンをあえて押し、ドアを開いて低いシートに身体を滑らせる。

思い出すだけで笑顔になる。四角いミニバンや背の高いSUVでは、これほど劇場的な体験は得られないだろう。

クルマへ乗るだけでも非日常的。毎日繰り返しても、面倒なことは一切なかった。ただし、筆者は違うが、180cmを超えるような人は乗り降りが大変かもしれない。

日常的な道でも喜びを感じる瞬間がある

スーパーカーで混雑した一般道を走る時は、気持ちを鎮めている必要がある。それでも、普段の通勤路が違って感じられた。カーブを描くいつもの道が味わい深いものになった。

エンジンは他のマクラーレン製スーパーカーと同じ、4.0LのツインターボV8。GTの場合は、620psと64.1kg-mを発揮する。車重は1530kgだから瞬発力はすこぶるイイ。

マクラーレンGT ルクス(英国仕様)
マクラーレンGT ルクス(英国仕様)

それ以上に好きになったのが、操舵感と乗り心地。グランドツアラーらしく快適で、薄い扁平タイヤでも路面の凹凸をしっかり吸収できていた。そして自分以外の道路利用者の姿が消えれば、豊かな充足感で満たしてくれた。

油圧式のパワーステアリングは、速度域に関係なく生々しい感触を手のひらに伝達。適度なボディロールが生じ、合法的な速度でもカーブを堪能できた。

マクラーレンGTを謳歌するのに、特別な場所までドライブする必要はない。日常的な移動でも、喜びを感じる瞬間を得られた。筆者が、このクルマで1番感銘を受けた特長だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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